第32話 遠征隊結成

 会議室から出たペスカは、クラウス、シリウス、シグルドの三人を呼び止めた。三人を集めたペスカは、会議室近くの小部屋に入り話し始めた。


「シグルド、遠征軍はどうするつもり? 近衛から出せる兵はいるの?」


 唐突なペスカの問いに、一瞬だけシグルドは目を見開いた。ペスカは戦力を分析した上で、問いかけているのだ。隠しても仕方がない。

 ペスカの洞察の良さに、シグルドは肩を竦めるようにすると、苦笑いを浮かべる。


「数名と言った所でしょう。連日のドラゴン騒ぎです。この先何が起こるか予測出来ません。王都の守備隊は勿論、近衛も全て王都守備に充てたい所です」


 シグルドは、一人足りとも動かすのは厳しいと答える。そう思っていたペスカは、少し上方修正し返答するシグルドの気概を感じていた。それでも王命通りに、近衛から遠征軍を選抜するのは難しいだろう。

 ペスカはシグルドの答えに軽く頷き、次はクラウスに質問を投げかける。


「そう。クラウス、ルクスフィア領も残党対応?」

「はい。ペスカ様が出立された後、残党騒ぎが増え始めています。領軍には警備の強化を命じております」

「今、シルビアは?」

「領内で情報収集に務めております。シルビアが必要なら、王都に呼び寄せますが、如何致しましょう」

「そうして貰えると助かるよ。悪いけど、諜報は他の人にやらせて」

「畏まりましたペスカ様。直ぐに手配いたします」


 言葉の真意を読み取り、先回りする様に返答する辺りが、長年ペスカの下で仕えた来たクラウスらしさなのだろう。

 そしてペスカは、少し考え込む様に腕を組む。数秒の後、シリウスに話しかけた。


「シリウス。メルフィー達に、直ぐに王都に来る様に伝えて」


 シリウスはペスカの言葉に頷く。しかし、直ぐに質問を返した。


「連絡は直ぐに致します。しかし姉上、どの様なお考えで?」


 これまでの言動でから察するに、遠征隊の件であろう事は間違いない。自らエルラフィア王にも参加の意志表明をしていたのだから。

 シリウス、クラウス、シグルドの順で見まわした後、ペスカは口を開いた。


「遠征軍は、私とお兄ちゃん。それとメルフィーにセムス。後シルビアの五人で行こう」


 シリウスやクラウスは、その言葉に驚きはしなかった。何せ予想通りの答えであったのだから。しかし、そこには近衛隊の存在が無い。

 ペスカは王都防衛には、必ず近衛隊の存在が必要だと感じていた。邪神ロメリアが、次にどんな手を仕掛けてくるか判然としない状態で、戦力を分散させるのは悪手だとも考えている。

 その考えには、シグルドも同意なのだろう。ペスカの答えに、笑顔で頷いていたのだから。しかし、それで終わるシグルドではない。


「ところでペスカ様、移動手段はどうされるのですか?」

「私とお兄ちゃんは戦車、後の三人の分は、これから造るよ」

「流石、ペスカ様ですね。ところでその乗り物には、もう一人乗る事は出来ませんか?」


 ペスカが何か言いかけようとするが、それを制する様にシグルドは話を続けた。


「ペスカ様、私も同行させて頂きます。私は陛下から遠征軍の編成を命ぜられた身。ペスカ様達だけにお任せする訳にはいきません」

「王都守備はどうすんのさ」

「副長に任せます。ただ、出来れば魔攻砲を数個、近衛に回して頂けると助かります」

「わかった。魔攻砲の件は、所長に伝えておくよ。シグルドは、陛下に報告をお願いね」

「承知致しました」

「クラウスとシリウスもよろしくね。なるべく皆が早く王都に着く様に、段取りしてね」

「承知致しました、ペスカ様」

「承知致しました、姉上」


 シグルド、クラウス、シリウスの三人は、直ぐに小部屋を出て行くた。残されたペスカも小部屋を出る。そして冬也は難しげな顔で、ペスカの後に続いた。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いやまぁ、妥当な人選だと思うけどよ。六人で足りんのか?」

「大丈夫なように、これから準備をするよ。お兄ちゃんも手伝ってね」

「ああ、任せろ」


 ペスカの返答に、冬也は笑顔を浮かべた。


 王城を出たペスカ達は、研究所では無く工場へ向かった。工場に着いたペスカは、冬也に向かい人差し指を立てる。


「ここでお兄ちゃんに質問です。これから私達は何を作るのでしょ~か?」


 冬也はペスカの問いに、腕を組み考え込む。ペスカが本気になれば、数日でとんでもない物が出来上がるはずだ。答えなんて出るはずが無い。敢えて答えるならば、先の会話内で出たものだろう。


「何をって、そうだな。乗り物か?」

「大正解! お兄ちゃんはちょっとおバカなだけで、やる子なんだね~」

「馬鹿は余計だ! 乗り物って言っても、一から作る時間なんてしねぇよな?」

「当たり前じゃないお兄ちゃん。ねぇ、メイザー領で荷車を使ったの覚えてる?」

「あぁ。あの怪しい乗り物な」

「怪しく無いし! あれの大型の試作機が、この工場に有るんだよ。それを改造して、武器とか乗っけて、何か色々するの」

「あのなペスカ。魔改造は、ほどほどにしとけ」

「え~、やだよ。ここからがペスカちゃんの本領発揮じゃない」


 冬也はやや呆れ顔で、ペスカの頭を軽く小突く。そしてペスカは、工場の作業員達に指示を出し、大型荷車の改造に取り掛かった。

 

 それからの五日間、ペスカと冬也は目の回る忙しさだった。

 大型荷車の改造と兵器の増産。研究所と工場を往復する合間に、シグルドと遠征の打ち合わせ。制作中の乗り物に目を付けたマルクが、ペスカを質問攻めにする。作業に追われ、あっと言う間に時が過ぎて行く。

 作業開始から四日目にシルビアが到着し、五日目にメルフィー達が到着した。予定の人員がそろった頃には、ペスカが発注した兵器が全て揃っていた。

 メンバーが揃ったので出発すると宣言したペスカは、六日目の朝に皆を工場に集めていた。


「さて、全員揃った所でお披露目です。これが、世界を変える乗り物! 軍用トラックだ~!」 


 ようやくお披露目となった乗り物を見て、冬也以外のメンバーは、目を白黒させていた。

 

 運転席部分と荷台部分が連結する様に繋がれ、運転席を含め全方面が分厚い鉄板の装甲覆われている。車両部を支えるのは六本の大型タイヤ。更に、荷台部分の上部には、大型の魔攻砲が二門備え付けられている。そして荷台部分は、四トントラック並みの大きさがあった。

 運転席部分は、戦車同様に前面と左右がスクリーンで出来ており、百八十度視界を保てる作りになっていた。特にペスカのこだわりで、荷台部分に簡易キッチン、簡易トイレが備え付けられた。


「作るの手伝って何だけど、やり過ぎじゃね~か」

「そんな事無いよ。ロマンだよ!」


 この軍用トラックは、日本で見かける物と大きく異なる。何故ならマナで動く為、ガソリン室もエンジンルームも要らない。大きな鉄の箱に、タイヤを付けて動けるようにしただけの物であり、タイヤやサスペンション等の各パーツに至るまで、既存の魔法工具を応用して取り付けられている、なんちゃってトラックである。

 しかし、ペスカのこだわりにより、外見を軍用トラックそっくりに仕立て上げられた上、砲門が取り付けられた車は、最早戦車と言っても過言ではない乗り物に仕上がっていた。


「流石ペスカ様です。我々とは次元が違う」

「ペスカ様。これは確かにロマンですね」

「やはりペスカ様の発明は、我らの予想を遥かに超える」

「ペスカ様、素晴らしい!」


 シグルドを初め、シルビア、セムス、メルフィーは、未知の乗り物を褒め称える。流石の冬也も、その光景には怒声を飛ばした。


「あんた等もっと驚けよ! これ見たら日本の連中だって腰を抜かすぞ! 特にシルビアさん! ロマンじゃね~よ!」


 冬也が顔を真っ赤にして捲し立てると、それぞれから返答が帰って来る。


「冬也、そんなに興奮するものでは無いよ」

「何言ってんの冬也君。かっこいいじゃない」

「メルフィーの言う通りです、冬也様」

「お客様。いえ、冬也様。ペスカ様はいつも素晴らしい物をお作りになります」


 四人が一斉にペスカの支持をすると、冬也は頭を抱えて座り込んだ。


「勝ったな、がはは!」

「ボケキャラ増やし過ぎだバカヤロー!」

「さて、こんなお兄ちゃんはほっといて、者ども荷物を積み込め~」


 ペスカの指示で、全員が準備しておいた兵器や食料等を積み込み始めるが、途中で注意を促す。


「トラックに積むアサルトライフルとロケットランチャーは、十丁づつで良いからね。弾丸はそれぞれ千発、手榴弾は百個積んでね」


 ペスカの発言に、疑問を感じた冬也は問いかける。


「残りのアサルトライフルとかは、どうすんだよ」

「これは、今日あたりにカルーア領軍が取りに来る予定になってるから、持って行って貰うの」

「いつの間にそんな連絡を。ってこの量を運ぶのは、トラックじゃ流石に無理か」

「さあ皆、カルーア領軍が到着したら、荷物を渡して遠征隊出発だよ!」

「おぉー!」


 ペスカの掛け声に合わせて、皆が声を張り上げる。

 自分達の荷物を運びこむ頃には、カルーア領軍が四頭立ての大型荷馬車を数台に乗り、護衛兵と共に到着する。ペスカは手早く、兵士に積み込みの支持を出し、運搬役の隊長を含め進行ルートの確認を行う。そして小一時間程で、全ての作業が終了し出発の準備は整った。

 ペスカと冬也は戦車に、シグルド達はトラックに、カルーア領軍は荷馬車や軍馬に、それぞれ乗り込んだ。

 こうして帝国と交戦中のカルーア領へと、ペスカ率いる遠征隊は出発した。

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