第31話 王都会議

 ペスカはアサルトライフルやロケットランチャー等を、マルクに設計図を見せながら説明した。マルクは目を輝かせながら、時折質問を交え説明を聞く。持ち込んだ武器の説明が終わると、研究室から出て戦車へ向かい、戦車の詳しい説明を行う。ここでも、マルクは質問を行いながら、一つ一つ嚙みしめる様に説明を聞いていた。

 一通りの説明が終わると、マルクは深く息を吐き呟いた。


「凄まじい技術だな。所々は全く理解が追いつかん。しかし陛下への報告だけなら、問題有るまい」

「詳しく説明したって、所長以上に理解できる人はいないって。それと、今の内に量産体制にも取り掛かった方が良いね」

「確かにな。報告の際に、私から陛下の許可を取っておこう。駄目だとは仰るまい」

「試作品が完成したら、試射をするからね。その時に、操作方法も教えるよ。近衛の人達も呼んでおくと良いよ」

「わかった。それも手配をしておこう」


 ペスカとマルクの会話は、正に技術者同士の会話であった。

 たかが十代の少女が、実用レベルに達する各種兵器の設計図を書ける時点で、驚嘆すべきなのだ。しかも、ペスカはこの世界に適用する形に、兵器の設計をしている。

 例えばこの世界では、未だ火薬は発明されていない。魔法が有る為、火薬の必要が無いのだ。ではライフルや手榴弾はどうやって起爆させるのか。それは魔法である。厳密にいえば、魔石に魔法を籠める事になる。

 科学と魔法を融合させた技術を形にする、ペスカは天才であろう。ただ、それを理解するマルクも只者ではない。

 当然、冬也が割り込む余地など無い。


「時にペスカ、君は会議までどうするのだ?」

「勿論、戦車の改良だよ」

「そうか、ではその間で構わんが、また戦車の仕組みを教えて貰えるか?」

「は~い。それじゃお兄ちゃんはどうする?」

「あ~、そうだな。シグルドから訓練に誘われているけど、それ以外にやる事ねぇな」

「冬也君、修行も良いが私の手伝いをする気は無いかね?」

「構いませんが、俺に兵器の知識は無いですよ」

「問題無い。君に期待しているのは知識ではなく、マナの保有量だ」


 顔を綻ばせマルクは、研究所に戻って行く。マルクから指示され、研究員達が俄かに動き出す。

 ペスカは自分の研究室での勝手をマルクから許可され、冬也はマルクから指示が有るまでペスカを手伝う様に言い渡された。しかしペスカと冬也が、研究室に荷物を運んでいると、天井から声が聞こえてきた。


「緊急、緊急、黒いドラゴン三体が王都上空に発生。黒いドラゴン三体が王都上空に発生」


 天井から聞こえた声を聞き、冬也は目を皿の様にしてペスカを見る。


「魔工通信の応用だよ。荷車に着いてたでしょ」

「ちげ~よ。ドラゴンだよ、ドラゴン!」

「わかってるって。行こっか!」


 荷物を研究室に放り込み、ペスカ達は急いで戦車に乗り込む。ペスカ達に釣られる様に、マルクを始め研究員達が研究所から出て来た。

 上空を見ると、王都北側に集中しドラゴンが上空を旋回している。ドラゴンを確認し、魔攻砲の狙いを定める。

 

「お兄ちゃん、やっちゃえ! 魔攻砲発射よ~い、てー」

 

 ペスカの合図に合わせ、冬也は魔攻砲を放つ。光の球が真っすぐとドラゴンに飛び、命中し粉微塵にする。研究員達からどよめきが上がった。


「お兄ちゃん、腕を上げたね。よ~し。二射目よ~い、てー」


 冬也は最初に撃墜した隣を飛んでいたドラゴンに狙いを定め、魔攻砲を放つ。光の球がドラゴンへ飛ぶが、ドラゴンは急旋回し回避行動を取る。しかし、光の球はドラゴンを追う様に飛び、後部に命中すると粉微塵にする。

 研究員達からのどよめきは、歓声に変わる。


「お~、やるね! どんどん行こ~! 三射目よ~い。てー」

 

 冬也は撃破した二体より少し遠くに旋回するドラゴンを狙い、魔攻砲を放つ。攻撃を避けようと、スピードを上げ旋回し続けるドラゴンを執拗に追い続け、光の球は命中し粉微塵にする。研究員からの歓声は更に大きくなり、雄叫びすら上がっていた。

 ドラゴンを消滅させて完勝したペスカと冬也は、研究員達から大きな喝采を浴びながら、悠々と戦車を降りた。


 会議までの三日間、ドラゴンの来襲は、朝晩を問わず止む事は無かった。ただ、ペスカ達が出動したのは初日の襲来だけで、以降のドラゴンは近衛隊が出動し退治した。

 近衛隊が忙しくドラゴンに対応している間、ペスカは実験と称し、たまに戦車で王都外に出かける。しかしそれ以外は、戦車の改造で研究室に籠っていた。

 冬也はマルクの手伝いで、研究所や兵器工場を飛び回る。王族が視察に来て、戦車の実演をさせられた日もあり、慌ただしく三日間が過ぎた。

 

 エルラフィア王国には、大小二十の領地が有る。会議の当日、王城には各地の領主若しくはその代理人が集まり、ごった返していた。王城の内外には近衛隊が配置され、周囲を警戒している。

 ペスカ達が王城に入ると、シグルドに出迎えられた。

   

「ペスカ様、よくいらっしゃいました。冬也すまない、訓練に誘っておきながら、時間が取れなくて」

「仕方ね~よ。あれだけ毎日ドラゴンが来てりゃ」

「今日も忙しそうだね~」

「はい。今日はいつも以上の厳戒態勢を敷いております。私も警備にもどらねば。失礼します」


 シグルドは、ペスカ達と軽い会話をし、慌ただしく警備に戻って行く。ペスカ達が案内され、会議の会場に入室すると、既に多くの領主達が会場入りしていた。その中にシリウスがおり、ペスカの会場入りを待っていたかの様に、近づいてきた。

 

「姉上、冬也殿、ご無事で何よりです」

「シリウスが来たんだ。領地は大丈夫なの?」

「領都復興は、叔父上にお任せしてきました」

「そっか。今日はよろしくね」

 

 会議室には大きな円卓があり、上座から王族、大臣、領主と続き、末席にペスカと冬也、そしてマルクの席があった。領主や大臣が席に着きくと、シグルドに先導され王族が会議室に入室し席に着く。そして、エルラフィア王の宣言で会議が開始された。


 始めに各領地からの報告が行われる。

 各領地で起きているロメリア教残党の騒動は、モンスターの製造こそ起こらなかったものの、大規模のテロ行為が相次いでいた。建築物の破壊とそれに伴う多数の犠牲者の増加、当初の報告より被害が大きくなっていた。そして今なお、被害は拡大傾向に有り、多くの命が失われ続けている。各領内では、領軍が厳戒態勢で警備を強化しているが、残党達が起こす騒動は依然沈静する気配が無い。


 続いて報告された、メイザー領のモンスター騒動は、他の領主達を震撼させた。室内にはどよめきが走り、騒然とした雰囲気は数分の間治まらなかった。

 

 次に報告された帝国の侵略は、奇妙な物だった。

 帝国軍の中隊規模、約二百名前後の兵が、突如として国境を越え進軍した。進軍した帝国軍は国境沿いの街に侵攻し、建物を数軒破壊し田畑を焼いた。領軍が駆け付けた時には、既に撤退しており、現在は国境門を占領し立て籠もっている。立て籠もった帝国軍は国境門を完全に閉鎖し、国境門を囲む領軍達に威嚇攻撃をしている。


 最後に報告されたのは、ここ数日王都を襲った黒いドラゴンの襲来であった。合わせて百体を越えるドラゴンが、昼夜問わず王都に現れ近衛隊に退治された。


 そして、先日ペスカから報告された、ロメリア神の関与も周知された。室内は更に大きなどよめきが走る。騒然とする室内をエルラフィア王が一喝し鎮めた。


 一通りの報告が終わると、帝国と隣接する領地の領主から質問が出る。


「陛下、帝国とは不可侵条約が結ばれていたはず。帝国へ開戦の意志確認は取れたのでしょうか?」

「こちらからの連絡に応答が無い。現皇帝は既知の仲だ。彼の御仁が侵略行為をするとは思えぬ。帝国内で大事が起きているとしか考えられぬ」

「もし開戦となれば、我が領だけでは抑えられない可能性が有ります」

「わかっておる。だが残党騒ぎで他領の兵は動かせん。近衛もドラゴン襲来で王都の警備を堅くしておる」

「では、如何なさると?」

「うむ.....。ペスカ殿どう思われる?」


 エルラフィア王からペスカの名が出て、室内が騒ぎ始める。ペスカは室内を鎮める様に、ゆっくりと手を挙げ発言を行った。


「その前に質問があります。帝国軍の様子はどうでした? 虚ろな目をしているとか」

「そ、そうですな。確かに帝国軍は虚ろな表情をしていたと、兵達から報告があった」


 帝国の侵攻を報告した領主に確認を行った後、ペスカは少し頷くと、エルラフィア王への質問を回答した。


「陛下。恐らく帝国軍は邪神ロメリアから、精神汚染を受けていると思われます」

「精神汚染だと?」


 ペスカの答えに、王族を始め領主達が驚愕の表情を浮かべる。


「今なら精神汚染は簡易だと思われます。汚染がひどくなると、ロメリア信徒の様な狂気者が増えるでしょう。そうなれば、殺す事しか対策は有りません」


 騒めく室内でも、はっきりと聞こえる声でペスカは答えた。


「どの様な方法を取るのだ?」

「現在、王立魔法研究所と魔攻兵器工場で、精神汚染対策の兵器を制作しております。出来上がり次第、帝国に乗り込むべきかと」

「何? まさかマルクから報告があった試作中の兵器か?」

「はい。軽度の精神汚染であれば効果を発揮するでしょう。モンスターで実証実験を行い、効果は確認済みです」


 室内からは、感嘆の声が漏れ始める。エルラフィア王は、その声に応える様にペスカに命じた。


「ペスカ殿、皆にも解る様に兵器の説明をして貰えぬか?」

「制作中の兵器は、既に存在している魔攻砲を応用した兵器です。従来とは違いマナを打ち出すのでは無く。魔法を込めた球を打ち出します。球に込める魔法は、マナキャンセラー」

「マナキャンセラーとはいったい何だ?」

「マナキャンセラーは、マナ暴走沈静と精神沈静の二種類の効果を発揮します。これにより、一時的に精神汚染された人々を元に戻す効果が生まれます」


 室内には感嘆の声が溢れる。そしてペスカは更に言葉を続けた。


「現在、工場で兵器の量産体制を整えております。帝国における現状は、邪神ロメリアの関与を疑う余地は有りません。一刻も早く遠征軍の編成をお願いします」


 ペスカの言葉に、エルラフィア王は大きく頷き答える。


「直ぐに遠征軍の編成を行う。シグルド、遠征軍は近衛から選抜せよ。各領主達は領地に戻りロメリア信徒の残党狩りを徹底せよ。マルク、兵器工場の権限を一次預ける。其方は兵器の量産体制を急げ、各領地へ分配する分も忘れるな。兵器が整い次第、遠征軍を出発させる。皆の者会議は終わりだ。各自急ぎ行動せよ」


 エルラフィア王の怒声にも似た号令と共に、各領主達が速やかに部屋を出る。ペスカ達もそれに続き部屋を出ようとした所で、エルラフィア王に声をかけられた。


「ペスカ殿、感謝する。また貴殿に助けられた様だ」

「勿体ないお言葉です、陛下。それにまだこれからです。遠征軍には私達も参加します」

「頼もしい限りだ。期待しておるぞ」


 敬礼し退出するペスカ達。戦いの音がすぐそこまで訪れようとしていた。

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