10月15日

 Ⅰの言葉にならい、今のは「すっごい偶然」だと受け止めるのが正しい反応なのだろう。感じていた違和感を、俺は一度なかったことにしようする。


 会話の性質上仕方がないのかもしれないが、今日の俺はKの言葉を思い出してばかりいる。あいつに助けられるなんて、本当に世も末だ。俺は一人で苦笑いして、Ⅰに「どうしたの」と不思議がられた。


「Kは……あいつは良く言ってたんです。自分がこんな性格なのは姉の影響だって。Mが汚いもの全部に蓋をするから、自分から変なものばかり見に行くようになったって」


「なんというか、本当に仲がいいんだね」

「……本当に」


 Ⅰの言葉を反復しながら、俺たちとは大違いだ、と内心で呟く。KもMも元々風変わりなところはあったものの、結果的には良好な関係を築けていた。一方の俺はといえば、結局例の10月15日を迎えてもLのノートを読んでいないし、家に帰るのも放棄している。そんな自分たちのどうしようもなさを、今はどうにかしようとさえ思っていない。


「ところでさ」Ⅰが両眼で俺を覗き込む。「別に催促するつもりはないんだけどね、今の話はLちゃんとどんな関係があるのかな」


 彼女の疑問は尤もだった。Lの話をしているはずなのに、現状はMとKの説明ばかりになっている。けれど、もちろんこれは理由があってのことだ。


 俺は少し冷めてしまったカフェモカに視線を落とす。複雑に混じり合ういくつかの出来事について、果たしてうまく語り切ることができるだろうか。

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