10月15日

 俺は悪友の発言を想起する。


 蘊蓄好きなクラスメイトが、以前そんなことを言っていたのだ。性格が悪く、他人をたぶらかすのが大好きな男だったので、無意識下の影響に気づいても気分が悪いだけだった。俺はため息をつきながら、半ば強引に話を続ける。


「Lは精神を病んでいて、とても一緒に暮らせるような状態じゃなかった。以前は普通だったのに、突然おかしなことばかり言い出すようになって……あいつ、自分のことをテレビゲームのヒロインだって言い出したんです」


「えっ、どういうこと?」


「自分には偽の記憶が植えつけられていて、本当は別の母親がいる、とかなんとか。そういうよくわからない設定について、Lは延々と喋り続けるようになったんです」


「わーお」


 苦笑いするⅠを見て、それが普通の反応だよなと思った。一瞬だけ自制心が働いて、この話はほどほどにしておくべきなんじゃないか、などと考えてしまう。


 Ⅰの許容範囲はどこまでだろう。Lはただの「やべー奴」だと言うだけでお茶を濁すか、それとも、あの笑えないエイプリルフール以降の話までしてしまうべきか。俺は少し戸惑ったものの、元はと言えば、話をふっかけてきたのは彼女の方だ。一切の自重をせず、全てを話して聞かせることにする。


「ただの痛いやつで済めばそれで良かったんだ。でも、妄想やヒステリーはどんどんエスカレートしていって……半年前、あいつは俺の目の前で手首を切ったんです」


「……そんな」


「もちろんその場で死んだりはしななかったし、Lはすぐに入院しました。俺が家を出る必要はなかったんですけど、事件があった家の中で過ごすのが嫌で……それで結局、友達の家に半年も居座ってしまった」


 話を聞いたⅠは、信じられない、といった様子でかぶりを振った。俺は深く息を吸い込み、口に残ったコーヒーの熱を吐き出す。


 さて、次はどこから話そうか。

「L」に関する話をぶちまけながら、どことなく満足げな自分がいる。

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