えいがのつたないかんそうぶん

佐々下 篠

そうだ かまくらにいこう

DESTINY 鎌倉ものがたりを見て


恋愛系の前世ネタと運命信者だわと冷めている反面、心にあった幻想を魅せられ喜んでいる自分がいました。

とても心温まる不思議な映画でした。

怪奇を楽しむ押しの弱い作家の旦那さんと、献身的でお人好しな奥さんの

初めて恋をした人が夢見る、純愛の結婚映画だと思います。

そんなに恋愛映画を見た覚えはありません、それでもこの映画は心温まりそれでいて甘すぎないすこし笑いもあり面白かったです。

度々この映画は結婚をテーマにしていました。

結婚した後に別居し、その夫に殺された妻。

結婚の後未亡人となった妻と子供が心配で人間をやめた夫。

その未亡人を支えたいと思う男。

死んだ後も夫が心配で現世に留まる妻。

死んだ妻を取り戻しに黄泉の世界にまで足を向ける夫。

結婚に希望を見ていない人や疑問を抱いている人に見てほしいです。

私は結婚に希望など抱いてはいません。そんなもの大きな負債を抱えるものだと思っています。

でもこの映画はそれでも真摯な愛も、極稀にあるのだと考えさせてくれます。

本当に、打算だけで結婚をする人間ばかりではないと、生涯をかけて育まれる絆があるのだと思わせてくれます。

浮気やすれ違い、熟年離婚といった、愛に疑問を覚える世の中で亜紀子と正成が貫く愛の重さ、誠実さに胸が打たれました。

また、こうなるんじゃなかろうかという簡易な伏線回収や納得がいかないものが目につきました。

ZIPでも度々登場した一つ目の小鬼の妖怪たちは中庭や玄関先で出てきただけで初登場時以外には触れられることはなかったし、

何故正成が真剣や模造刀ではなく剣道の刀を使っていたのかわからなかったし、

キンさんが何者なのか、年齢が百歳を有に超えた存在が人間なのか人間ではないのか説明がほしかったし、

黄泉行きの江ノ電で死神さんが隣に居ない正成を不審に思う死神はいなかったのだろうかと疑問に思いますし、

ガタガタという南の物置の物音や亜紀子を襲った赤い手や三途の彼岸からの帰り方やら適当な仕事をする死神局の存在やら気になるところが多々ありました。

また前半の天頭鬼についての伏線が多く、これと対峙するんやろなあと薄い目で見ていました。

貧乏神さんも同様に神様と物々交換ということをした手前、あのお茶碗が鍵になるんだろうなあと思いながら見ていました。

漫画として読むなら伏線が散りばめられ、回収されているので楽しかったと思います。

33巻も出ている漫画の魅力をたかが二時間弱でどうにか出来るとは思いませんが、

少々展開を盛り込みすぎて説明がほしい点が多かったです。妖怪の登場もわりかし少ないです。


この映画の評価は亜紀子を受け入れられるかによって変わると思います。

亜紀子が話したら楽になるかもしれませんよと促し、別の場面で忘れましょうと背中を擦っているシーンに亜紀子の優しく度量の大きいさまを感じました。解決方法を策するのではなく、ともに寄り添うことを選んだのだと勝手に思いました。

度々舌足らずな声で亜紀子は正成に突進をしてきますが、年離れた新妻の甘えただと思うと特に気になりません。

それでも正成を支えようとする姿は、覚悟を決めた奥さんのもので、ふわりと涙腺が緩みました。

主題歌の歌詞にある”代わり映えのない明日をください”の部分に亜紀子の先生がいれば貧乏でも幸せという台詞を思い出しエンドロールでうるうると来ました。その方式で行くと神様貧乏神様じゃん…

亜紀子の純粋にただ一人を愛すという美しさに思わずため息が出ます。

道の真中で亜紀子の覚悟を見るしか無く只管我慢をしようと握った拳を足に打つ正成や、

妻の幸せのために身を引いた本田、誓うくらいなら食われることを望むムロツヨシ、前前前世から亜紀子を求めている天頭鬼。

詰め込みすぎではと思う反面、二時間弱で様々な愛の形を垣間見た気分でした。

覚悟を決めてティッシュ片手に泣きに来たのに覚悟以上に泣きながら観ました。

死にゆく愛する人の覚悟を邪魔することに我慢できるでしょうか。

人間の道を外れ魔物になってまで遺してしまった誰かを見守ろうとするでしょうか。

魔物に食われてもいいという覚悟で誰かを愛せるでしょうか。

前半での緩やかな当たり前に過ぎる日常と、後半のダイナミックでファンタジーな非日常の差が激しい映画でした。

エンドロールってどこも背景真っ暗で縦ロールなのは何でなんですかね。

あんなに江ノ電が活躍したんだから、隣同士で江ノ電に乗る亜紀子と正成の後ろ姿を下に配置して横ロールで流したら面白かったのにとちょっと思いました。エンドロールが面白いと劇場が明るくなるまで席をたつことって無いですよね。

居なくなっていた風見鶏が平穏になったときに戻ってきたのには魔除けとは一体…と思いました。

アッでも魔除けがいなくならなきゃ幽体だった亜紀子はお家に帰れないんや…。


私はまだ、原作を読んでいません。するべき事前学習をしていません。

どの映画も実写となると二時間で話を詰めなくてはいけないため、削られたり別設定になっているのは百も承知です。

他の実写映画ではむむむとなったこともあります。

原作で期待をしていると大抵は次元が一つ違うために期待はへし折られます。

これは原作を読まずにはいられない。

もっと魑魅魍魎が跋扈しながらも人間が平然と暮らしている、鎌倉らしい鎌倉の不思議が詰まっているのでしょう。

亜紀子と正成の、想い合う者同士が隣に居ることのできる、当たり前の幸せがそこにあるのでしょう。

原作のものがとても、読みたくなりました。33巻分読んできます。



結論:泣きたいのなら鎌倉ものがたりは疾走感有りすぎていい。





ついきもうそう


天頭鬼のところにいる亜紀子が魂だけの存在では有るけれども理由の不明確な死だったために陰魄が定着されず生前の記憶がおぼろげになっていれば更にトリプル役満だった。伝統芸能お家芸 記憶喪失ネタ。

天頭鬼に嫁になれと迫られているけれど亜紀子は姿のおぼろげな”誰か”を待っている。

左指にはめた指輪が、誰かの愛を叫んでいる。

後ろから強く、誰かに抱きしめられたことを覚えている。

でも肝心の”誰か”がわからない。

外を走る江ノ電を観て何かを懐かしむ気持ちになる。

天頭鬼にそれは俺だと何度言われても、亜紀子は突っぱねる。

私の待っているのは貴方じゃないと悲痛に眉を下げる高畑充希の可愛い顔が見たい。

欠けた心の1片が実は何よりも大切って恋愛映画の鉄板ネタ。


あんなに伏線で出てきた天頭鬼の家具たちがあんな軽い伏線だったことに若干納得がいっていない。

一つ目の子鬼たちの出番が少なかったのも納得がいかない。下手をするとじっぷでのほうが登場してますよねおたく。


おぼろげな誰かのことを悩んでいた亜紀子のもとに助けに来た正成が駆け込んでくるといい。

天頭鬼たち御一行とは違う正成のことを心配する亜紀子と

自分のことを忘れながらも心配をしてくれる亜紀子にほっとする正成

誰かを待っているのだという亜紀子に正成は「君はそんなおとなしい人間ではなかったろう」と外への脱出を提案する

確かにそうだと亜紀子が納得したところで、侵入者に気づいた天頭鬼たちが入ってくる。

映画通り戦闘シーンが有って、四面楚歌の状態になったときにぱりんと窓が割れて何かが入ってくる。

赤いお盆と、一つ目の子鬼たち。

正成のお父さんがお母さんといっしょに籠の中からこちらを観て笑った。

「現世の忘れ物をお渡しに」

ごとんごとんと石の床の上にお盆を転がす一つ目の子鬼たち。

亜紀子にはソレに見覚えがあった。

天頭鬼と、剣を持つ男の人と、守られる女の人。

これなんかいいんじゃないんですか どこにかざるんだそんなのいったい

人と人じゃないものが互いに笑う夜市のことを思い出す。

置いてきてしまった夫と一緒に江ノ電で黄泉の国に行った優子。

私が夜市で買って料理してしまったマモノマツタケの対処法を教えてくれたキンさん。

いつも隣で私のことを待ってくれていた、

「せんせい、」



週替り入場者プレゼントで魔除けの札ブックマーカーとか一つ目の子鬼ちゃんたちのステッカーとかありきたり全員集合ポストカードとか亜紀子が開いていた掛け軸の柄のポストカードとか合ったらめちゃくちゃ通うわって私の中のオタク心が叫んでいるので追記させて頂きます。

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