第14章 妹は復讐の女神 2
慌てて俺も御者台から降りようとした。が、手綱を放すわけにはいかない。
代わりに、ウィリウスとクレメテスが慌てて降りてきた。アマリアは既に車道の横に併設されている一段高い歩道に上がっている。背後で男共が慌てている様子など、振り返りもしない。
「おい、クレメテス。交代だ」
俺はクレメテスを呼びつけると、手綱を示した。クレメテスは腹立たしそうに、黒い眉をしかめる。
「俺は、お転婆お嬢様から、目を離すわけにはいかないんだ。それに、宿を見る目は、あんたのほうが確かだろ?」
俺はクレメテスを持ち上げてやった。アマリアとウィリウスが一緒では、一晩中、
「クレメテス。宿は任せる。いつもの通り、大通り沿いなら、どこでもいい」
俺を援護するように、ウィリウスが言い添えてくれる。
「かしこまりました」
打って変わって従順な口調でクレメテスが一礼し、俺が持つ手綱に手を伸ばす。
しかし、次いで俺に向けた視線は、磨き上げたグラディウスのように鋭かった。
「もし、わたしが側にいない間に、ウィリウス様とアマリアお嬢様に何事かあってみろ。問答無用で、わたしがお前の首を斬ってやる」
俺は唇をひん曲げると、すぐさま言い返した。
「はん! 余計な心配をする暇があったら、せいぜい、荷物に目を光らせていろ。盗まれたら、お前の責任だぞ」
クレメテスに手綱を放り投げると、俺は御者台から飛び降りた。尻が火で
馬車の車輪は、摩耗を防ぐために、鉄の帯を巻いている。その車輪で、平坦とはいえ、固い石畳の上を走るのだから、騒音と振動は推して知るべし、だ。
徒歩で旅をするよりは、格段に速く移動できるが、その分、尻が痛くなる。アマリア達がいる座席には羊毛をたっぷりと詰めたクッションが幾つも積んであるので、まだ数段ましだろうが。
「お嬢さん! 一人で、勝手にどんどん進むな!」
俺とウィリウスは、道行く人々の注目を集めながら、歩道をずんずん進むアマリアを、小走りで追いかけた。
「アマリア。わたしまで放って行くことはないだろう」
アマリアに並んだウィリウスが、苦笑混じりにぼやく。アマリアは、ようやく振り返ると、明るい茶色の瞳を煌めかせた。
「まあ。放って行っただなんて、とんでもありませんわ、お兄様。私は、お兄様達がすぐに追いついてくださると、信じて行動しただけですのに」
嘘だ。アマリアの性格なら、たとえ一人だけでも、
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