少女とロボットは漁る
瓦礫の山をかき分けて、資材を漁る少女の姿があった。古びたモッズコートの裾をさらに汚しながら、崩れ落ちたビルの壁を小さな手で掘り進めていく。
「なんかいいもの、ないかなぁ」
少女の姿は決して清潔とは言い難かった。それでも、少女の表情は明るかった。瓦礫を漁る目はきらきらと輝いている。
「楽しそうだね」
その少女の脇でけたけたと笑う影がある。バネのようなぐねぐねした手足を持つ、小さなロボットだ。全長が少女の頭ほどしかないそれは、瓦礫に腰かけて足をぶらぶらと振っていた。
「うん、発掘、楽しいよ」
「なにがそんなに楽しいのさ。ただのゴミ漁りでしょ?」
からかうようなその言葉に、少女は顔を上げた。むすっと口を尖らせる。
「そんなこと言うと、君を売っぱらっちゃうよ?」
「いいのかい? そうしてしまうと、キミはひとりぼっちになっちゃうよ?」
「ポッターさんがいるもん」
「ポーターね。彼は運ぶことが仕事なんだよ。だから、毎日一緒にはいられないじゃないか。こうして軽口を叩き合う相手は貴重じゃないかい?」
「むぅ……」
少女は反論できない。確かにポーターさんとずっと一緒というわけにはいかない。少女は少女で、荒廃した都市から資材を発掘するエキスカベータという仕事をしている。それはポーターとは違って、ひとところに留まる仕事で、ほとんど移動しない。移動するときは、拠点周辺のすべての資材を掘り起こしてしまったときだ。とは言っても、今はすべての作業が人力だ。拠点にしている一帯を掘り起こすのに何年もかかる。
「ボクの勝ちだね」
「勝ち負けなんてどうだっていいの」
少女は苦し紛れに言うと、ロボットはまたけたけたと笑った。
「ボクを造ったのはキミなのに、どうしてボクに負けるのさ」
「頑張ったからだよ。私は友達が欲しかったの」
「そしたら、キミより賢くなっちゃったのか」
「もう、そんなこと関係ないでしょ!」
「そうだね。キミはボクの友達で、ボクはキミの友達だ」
「うん」
少女は力強く頷くと、幸せそうに微笑んだ。そしてまた、モッズコートの裾を引きずりながら、瓦礫の山を崩していく。
「……まったく。かわいいね、キミはほんとに」
ガラクタの寄せ集めのロボットはそう小さく呟いた。
「なんか言った?」
瓦礫の山からひょこっと顔を出す。頬が土で汚れていた。
「なんにも」
そこでロボットは空を見上げた。
「ねぇ、今日はもうおしまいにしよう。そろそろ降ってきそうだ」
つられて少女も空を仰ぐ。
「ほんとだ。じゃあ帰ろっか」
「賢明だ」
言うなり瓦礫の隙間から出てきた少女の肩に、ロボットが飛び乗る。そこが彼の特等席だ。
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