水森飛鳥と出水風弥は斯く語る――確認×説明×連なる世界Ⅲ


「俺がこっちに居るのは、単純な理由だよ」


 そう言って、風弥かざやは話し始める。


「『神隠し』って、知ってるか?」

「神隠し、って、アレだよね。人がいきなりいなくなったりするっていう……」

「まあ、その認識で間違ってない」


 それでさ、と風弥は続ける。


「元々、俺が居たのはこっちの世界なんだけど、神隠しにあって、お前たちが居る世界に辿り着いた」

「……」

「最初は似たような感じだったから、別の世界だなんて思わなかったんだけど……」


 使えるはずの異能が使えなかったりして、パニックになっていたらしい。


「その後、少しずつ慣れていって、お前たちとも会って、二つの世界を行き来しながら、今に至るって訳だ」

「……なるほどね」


 何となく――何となくだが、言い方的にかなり端折はしょられた気もするけど、大体の流れ的なものは間違ってないのだろう。


「……」

「……何」

「いや、お前のことだから、てっきり詳細な部分まで聞いてくるかと思ってたんだが」


 こいつは……


「何、聞いてほしいの?」

「いや、そういう訳でもないんだが……」

「だったら、いいよ。その代わり、小夜さやに説明するときには、全てじゃなくても言うこと」


 私には隠してもいいが、あの子に隠すのだけは許さない。


「そこは普通、早く話せとか、後であいつから聞いてやるとか言わないか?」

「え、何。結局は私に聞いてほしいわけ?」

「あー、うーん……」


 はっきりしねぇなぁ、こいつ。


「異能で覗くのを期待してるのなら、やってやらないし、察しろって言われても、察せられないから」

「……悪い。ぶっちゃけ、お前が聞いてくるかと思ってたのに、全然聞いてこないから……」

「私が聞く前提かよ」


 おいおい……私だって、聞かないときあるぞ。


「……ったく、こういうことなら、先に聞いておくんだった」


 私の内容の方が重く、深刻に聞こえるじゃないか。

 いや、重く、深刻ではあるけど。


「けど、『行き来・・・』。『行き来・・・』ねぇ……」


 私や夏樹なつきは神様こと神崎かんざき先輩から貰った『鍵』で行き来・・・しているわけだけど、風弥は一体、どうやって行き来・・・してるんだ?

 この事がもし、話せない事項に入るのなら、諦めるしかないけど、もし聞き出せて、そっちの方が負荷が少なかったり、便利っぽかったりしたら、使わせてもらおう。


「そういえば、風弥って、どうやってこの世界こっちあの世界あっちを行き来してるの?」


 どうせ聞くことなんて、これ一つなので、直球で行かせてもらおう。


「何だ、そんなことか」

「そんなことかって……」


 仮にも異世界間を行き来できるんだから、そんな軽いものみたいに扱うなよ。

 ……いや、他人ひとのこと言えないけど。


「別に単純だぞ。『鍵』だしな」

「……」


 神崎先輩せんぱぁぁぁぁい!!

 そして、お前も何あっさりと見せてくれてるの!?


「……よろこべ、風弥」


 初めて私たちの世界に来た風弥を助けたのは、多分、神崎先輩だ。

 証拠も無いのに、何故そう言えるのか。

 だって、鍵の意匠が一緒なんだもん……!!


 けれど……こっちも見せないと駄目だよね。

 鍵なら、この場ですぐに取り出して、見せること出来るし。


「私も、一緒だ」


 覚悟が決まれば早かった。


「私も、『鍵』で移動してる」


 私の『鍵』を見せれば、風弥が自分のと見比べる。


「……」

「……」

「……何か、似てるんだが」

「……そうだね」


 それは多分、制作者(仮)が一緒だからだろうね。


「……」

「……」

「……」

「……」


 きっと、風弥の中でも私と同じような結論が出ているのか、頭を抱えたり、残っていたコーヒーに口を付けたりしながら、黙り込んでしまった。


「……まあ、何だ。つまり、俺たちが住んでる世界は、平行世界やパラレルワールドみたいなもんだってことだ」

「無理矢理、結論だしたね」

「だって、仕方ないだろ!? ……正直、直視したくない」


 あー多分、神崎先輩のことかなぁ。

 神様なら、私たちが小さいときから見た目が変わってなくてもおかしくはなさそうだけど。


「夏樹も持ってるんだよな?」

「持ってるね」


 持っていなかったら、いつも一緒にこちらに来ないといけなくなってしまう。


「そういや、あいつ。あっちとこっちで記憶の差異はあるのか?」

「どうだろう? こっちではある意味顕著だけど、あっちだと本人は隠してるのか、生まれ育った世界としての影響なのか、こっちとは違って、覚えてるっぽいこともあるみたいだし」

「そうか……」

「多分あっちだと、態度で分かると思う」


 本人は出来る限り、以前と同じようにしようとするだろうが、家族以外で親しい私たちに通用するはずがない。

 もし、通用すると思っているのなら、今までの付き合いを馬鹿にするなと言ってやりたくなる。


「こっちと同じだと思いたくないな」

「うん……」


 あっちでも似たような感じであれば、ショックではあるし、クラスメイトたちからも違和感は持たれるだろうし、何より――


「小夜に殴らせたくない」

「気にするの、そこかよ。いや、想像できるけど」


 小夜とて、実際に殴ることはない。

 言葉で殴るのだ。それも、ストレートに。


「正直、お前の負担ばかりが大きいのは気になるが、学校が違う以上、こればかりは仕方ないしな」

「そのための、夏樹の存在だったんだろうにねー……」

「でも、使い物になってないなら、意味ないだろうが」


 私としては、夏樹が居るだけで、現状は一学期の時みたいになったようなものなんだけど……


「だから、私の負担を軽くするために、定期的に話を聞いてくれるんでしょ?」

「まあな」


 数少ない、味方だから。

 こうして、気にせず話せる存在だから。


 私も残っていた分を全てを飲み干せば、帰るかとばかりに立ち上がる。


「ありがとうね、風弥。話できて良かった」

「そうか。こっちも話せて良かったよ」


 そして、会計し(途中、日向ひゅうがさんの笑みが気になったが)、店を出る。


「叶うと良いな、お前の願い」


 夏樹の件も、春馬ハルの件も、この世界を救うことも。

 このことを『願い』と言っていいのかは分からないけど……


「そうだね」


 でも、だからこそ――


「叶えるためには頑張るし、悪あがきもするつもりだよ」

「それこそ、俺の知る水森みずもり飛鳥あすかだな」


 ようやく戻ってきたとでも言いたげに、嬉しそうに風弥が告げる。


「取り戻して、救えよ。絶対」

「もちろん」


 目指すゴールは、ハッピーエンドだ。

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