水森飛鳥と出水風弥は斯く語る――確認×説明×連なる世界Ⅱ


「乙女ゲーム?」

「そう」


 復唱するかのように風弥かざやが聞いてきたので、肯定する。


「一言で説明するなら、私が関わっているのは、そういうのに近いと思う」


 そして説明するのは、『神様』こと神崎かんざき先輩からの頼みごとから始まり、ラスボスであろう女神の手によって一学期の終わり間近に強制帰還させられたこと。

 二学期になってから、夏樹なつきが来て、どう過ごしていたのか。協力者が学園外に他にもいることなど、ざっくりと話していく。

 ――もちろん、失敗すると、この世界から帰れなくなることも。


「ここまでの経緯は分かった。ただ二つ、聞いていいか?」

「良いよ」


 ここまで、特に口を挟まずに聞いてくれていたんだから、答えられる範囲でなら答えてみせよう。


「一つ。お前は時間が繰り返されてるって説明していたが、それだと、生じた矛盾点はどうなる」

「私たち側――つまり、私と同じように転移してきた人たちに関して言えば、記憶の改竄とか、資料の改竄とかは行われてるみたいだけど、風弥が聞きたいのは、この世界の人たちの影響とタイムパラドックス的なことでしょ?」

「ああ」


 その点については聞かれるとは思ってたから、私の中でもどう答えようか考えてみてはいたけれど……


「はっきりしたことは分からないけど、多分、何らかの力は働いてる。というか十中八九、間違いなくそれは断言できる」

「理由は?」

「私が通う学校に、この街に、『桜峰さんしゅじんこう』が居るから」


 神なんていう存在が、目に見えたり、語りかけてきたりしなければ、この理由が大きいんじゃないんだろうか。


「一番効果が出てるのは、学校。物語の舞台だから仕方ないよね。そして、その学校が区域内にあったり、隣接してる町とかも、彼女の行動範囲に含まれるから、その範囲は必然として、タイムリープ範囲に含まれる」

「……」


 これは本当におかしな話で、今もこうして時計の針は進んでいるというのに、もしこれがリセットされてしまえば、ここで話していたことも、下手をすると――風弥が居たことに驚いたことや、すずめさんと知り合ったことすらも、もしかしたら、失くなってしまうのかもしれない。


「だから、タイムリープを終わらせたとき、彼らの年齢や身体に及ぼす作用とかがどうなるのかは分からない」


 取るべき年齢の分を一気に消費してしまい、本来の年齢とその姿になるのか。

 それとも、これから本来取るべき年齢を過ごしていくのか。


「ま、その辺は先輩に聞いてみるしかねぇだろうな」

「うん……ただ、彼らはタイムリープを繰り返している以上、今同級生の人たちが年上っていう可能性もあるから、正直複雑」


 そう言えば、風弥が笑みを浮かべて返してくる。


「安心しろ。俺と夏樹は同い年だからな」

「……」

「じゃなきゃ俺、ロリコンだぞ」


 ……ああ、そうなるか。

 タイムリープがどのタイミングで始まったのかは分からないが、タイミングがタイミングなら、風弥は私たちよりも年上になっていたのかもそれない。

 でも今は、彼の言う通り、私たちは同い年・・・だ。


「友人が、ロリコンは嫌だなぁ」

「俺だって、嫌だ。そもそも、お前らにすら会えてない可能性もあっただろうが」

「……そう、だね」


 もし、風弥と会っていなかったら、こうしてここに居ることも無かったのかもしれない。


「……二つ目、いいか?」

「どうぞ」

「本来であれば、これは先に確認しておくべきことだったんだが、俺に話して良かったのか?」

「本当に今更だね」


 そのための、自衛手段の確認だったのだが。


「はっきり言って、駄目だと思う」


 それを聞いた風弥の顔が歪む。


「風弥やその周囲に、どういう影響が起きるか未知数だからね。だからこその自衛手段の確認だったわけだけど」


 そして、喉を軽く潤す。


「私たちが相手している『女神』は、そう名乗るだけあって、この世界に対して、好きなように影響を与えることができるみたいだから」


 だから、私は勝手に帰らされたり、夏樹を利用されたりさせられている訳なんだけど。


「だから、こうして話してることが、もしかしたら、あちらに筒抜けかもしれないし、もし知られたら何らかの手を使ってくる可能性は高い」

「利用か排除の二択か」

「そうだね。でも、風弥は男だから『利用』だろうね。逆に、雀さんたちもライバル枠として『利用』されるかも」


 風弥の表情が、先程以上に歪む。


小夜さやのことも……忘れるのか」

「可能性はあるね」


 雪冬ゆきとさんのことも忘れていた夏樹のことを思うと、風弥が利用された場合、小夜を忘れる可能性が無いとは言い切れないのがつらい。


「夏樹が戻る気配は、本当に無いんだな?」

「現状では、このループを終わらせるか、何かきっかけを与えることの二つしか思い付かないんだけど……」

「ハル、か……」


 ハルは、私への人質だ。

 だからこそ、私の行動は鈍くなっている部分もあるのだが。


「もし、風弥が動いたとして、雀さんたちが人質にでもされたら、さすがに申し訳ないよ」


 俯きがちになりながら、そう言ったからか、風弥がどう思ったのかは分からないが、何か言おうとして、めるような気配がする。


「……まあ確かに、あいつらは俺にとっては良い人質になるよな」


 だがな、と風弥は言う。


「俺は友人を見捨てるつもりは無いぞ」


 それを聞いて、視線を向ければ、仕方なさそうにも見えるような表情で、風弥は言う。


「だからな、何か手伝えることがあったら言え。話を聞くことぐらいなら、いつでも聞いてやるから」

「……」


 ――ああ、もう。この友人は。


「ありがとう」


 少しだけ――ほんの、少しだけ。安心したり、落ち着けた気がする。

 雛宮ひなみや先輩たちも居ることは分かっているが、それでも――それでも、やっぱり親しい友人からの言葉というのは、そこに存在してくれているだけでも有り難くて。


「そう言ってくれたお陰で、もう少しだけ、頑張れそうだ」

「けど無理して、倒れるようなことだけは無いようにな」

「大丈夫。だって、話ぐらいは聞いてくれるんでしょ?」


 風弥の言葉に、先程言われた言葉を返せば、数回まばたきをした後、「ああ」と返される。


「さて、次は風弥の番だよ」


 私のことを話したのだ。

 だから、風弥に話してもらえるまで――時間が許す限り――逃がすつもりはない。

 けれど、風弥の方は逃げるつもりは無かったのか、観念したのか。


「そうだな」


 そして、一度喉を潤すと、風弥は口を開く。

 何故、この世界に居るのかを――……


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