水森飛鳥と絶望へのカウントダウンⅨ(灰色に染まる世界)☆
遊園地であんな別れ方をしたと言うのに、
「おはよう、
朝の挨拶に始まり、移動教室や昨日見たテレビの内容。友達同士で話すことを、彼女は話してくる。
「……
そうやって呼び掛ければ、「何?」とでも言いたげに、小首を
「どれだけ引っ付こうが、私は話さないからね?」
「そのことは……もう、いいよ。今は私が一緒に居たいから、居るんだし」
そう返してくるが、この子、私がその気になれば心の声を聞き取れること、忘れてるんだろうか。……聞かないけど。
「あ、そう」
まあ、聞いてこないのなら、好きなだけ側にいさせてあげよう。そのうち、相手にされなさすぎて、音を上げるだろうから。
☆★☆
何で、こうなったんだろう。
「……」
「……」
「……」
現在、私が居るのは、生徒会室である。
一学期以来、行くのを避けていた例の部屋だ。
では何故、こんなところに居るのかというと――
「ほら、飛鳥。はい、あーん」
桜峰さんに誘われ――たけど、断ったために――、連れてこられたからである。
「いや、一人で食べれるし、何で私は連れてこられてるの」
「そんなことは、別に良いじゃないですか。我々と一緒に昼食が取れるなんて、滅多に無いことですよ?」
そりゃ、そうでしょうね。
逆に私は、廊下に出た途端に、質問攻めに合いそうだけどな!
「それで、ご用件は? 咲希を使ってまで、連れて来させたんですから、私に何か用が合ったんですよね?」
私の両隣と正面だけでなく、扉の付近にまで立たれていれば、何かあると言われているようなものである。
「別に用件はありませんよ? 咲希が言ったでしょう。一緒に食べたかったから、誘ったのだと」
あくまで、
「もー、飛鳥先輩ってば、警戒しすぎ。こっちは別に取って食おうとは思ってないんだからさぁ、ピリピリするの止めようよ」
後輩庶務がそう言うが、誰のせいでそうなってると思ってんだ。
「止めてほしいのなら、返してもらいたいんだけど?」
「それは駄目だよ。咲希先輩が落ち込んじゃうから」
やっぱり、桜峰さんが第一、か。分かってたけど。
「この後、選択科目だし、移動教室なので」
「こんなこと言ってるけどー?」
「残念ながら嘘だな」
ここから脱出するために、適当な嘘を言ってみるが、それも後輩庶務が
「つか、受ける授業が同じだからな。嘘だって、すぐに分かるぞ」
――本当、付き合いの長い人間が敵に回ると言うのは、厄介なことこの上ない。
「でも、チャイムは無視できないから」
その点は同意なのか、他意があるのか。夏樹だけではなく、役員たちの眉間にも皺が寄る。
「そういうことだから、帰らせてもらいます」
時間が時間なので、私が異能を使うまでもなく、チャイムが鳴る時間だ。
そして、キーンコーン……と、校内に鳴り響くチャイムを横目にに、昼食として持ってきていた弁当とかを素早く片付け、立ち上がる。
「んー……それじゃあ、俺たちの手伝いっていう名目で、もう少しだけここにいてもらえない?」
「私は君たちと違って、授業に出ないとマズいんだけど」
役員たちは良いのかもしれないが、こっちはそうもいかない。
まあ、それは夏樹と桜峰さんも同じなのだが、女神の作用がある以上、どんな影響があるのか分かったもんじゃない。
「というわけで、今度こそ――」
教室に戻るために、扉に近付こうとすれば、そこまでの通り道を塞がれた。
「……どういうつもりかな?」
授業に戻らないといけないことは分かってるはずなのに、何で塞がれなきゃならない。
「戻るのは構わないけど、そのまま逃げられるのだけは困るからね」
「……」
「だから、こっちの質問に答えてもらうまでは、通せないかな」
今更感があるが、私の機嫌は悪い。それも――物凄く。
故に、
現に、桜峰さんがおろおろとしているし、
「残念ながら、君たちに話すことは、こっちには無いから」
だから
それを感じ取ったのだろう、会長は思わずといった感じで立ち上がり、副会長と後輩庶務は警戒体勢。鷹藤君はさっきの意志はどこえやら、こっちを驚いた様子で見ている。
そして、桜峰さんはカタカタと小さく震え、私の目の前にいた夏樹と
この程度で、と言うべきか、それとも仕方がないと言うべきか。
でも、チャンスだけは逃がすつもりはない。
「それでは皆さん。今度こそ、失礼しますね」
殺気を解き、にっこりと笑みを浮かべてそう言ってやれば、「あ、はい」と何とか声を絞り出したかのような声色で、副会長が返してくる。
多分、引き留めようと思えば出来たんだろうけど、また殺気を浴びたくないと言う意識がそうさせたのだろう。
「……」
正直、桜峰さんの攻略に手を貸してしまった感はあるのだが、相手は決まっているようなものだし、どうせ残り時間も減ってきているのだ。
ギリギリまで粘るつもりではいるが、ハルへの影響も無いレベルにまで落とすとなると、どこまで出来ることか。
「いや、そんなことどうでも良いか。……切り替えよう」
そもそも、うじうじ悩んでいたって、仕方がないのだ。
やるべきことは決めたんだし、そもそも桜峰さんが来るまで、してきたことじゃないか。それを再び行えば良いだけのこと。
「大丈夫、大丈夫」
そう自分に言い聞かせるように呟く。
まだ廊下に残っていた生徒たちや次の授業の担当教師たちが、次の授業までの時間が近づいているからか、教室に入っていったり、入るのを促している。
私たちの教室までは、まだちょっとだけ掛かるというのに、焦りはない。
「あーあ……どうせなら、楽しく過ごしたかったなぁ」
だ世界から、まるで色という色が消えたかのように。
灰色に見えていく。
けれど、彼女や彼らと関わらないようにしないといけないというのであれば、私は私を誤魔化し、騙していけばいい。
ああでも、もう少しだけ『色』を見ておけばよかった。点灯された綺麗なイルミネーションも、まだちゃんと見たわけじゃなかったから、それだけは残念だ。それでも――
「もしもの時は――頼むよ、
ギリギリまで粘って粘って、粘り続けて。
それでも駄目で、限界が来たら。
『分かってる。だから、貴女は無茶をしないで。そう言うのは、私の役割だから』
そんな声が聞こえた気がした。
でもそれで安心できたのは、この世界で、きっと一番信じられる相棒だから。
確実に、時計の針は進んでいく。
どのような終わり方になるのかはまだ分からないが、世界が灰色に染まったとしても、私はまだ足掻けるだけ足掻いてみせよう。
それが、絶望へのカウントダウンにして、片道切符だったのだとしても、ハッピーエンドを引き寄せられるのであれば、きっと安いものだと思えるのかも知れないから。
「それまでは、もうちょっとだけ頑張るよ」
私には、頼れる先輩たちだって居るのだから、いざとなればアドバイスを貰えばいいし、
『頑張れ、飛鳥』
その声とともに、私は教室へと入っていくのだった。
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