水森飛鳥と各ルートⅢ(鳴宮郁斗ルートⅤ・迷子の少年)


 さて、桜峰さくらみねさんたち捜しの再開である。

 正直、目的とやってることが違うどころか、逆転してる気もするが、今は仕方ないと思うしかない。


「……連絡なし、か」


 別に異能で捜せなくはないのだが、音を仕分け、あの二人のみの音を見つける必要がある。はっきり言って、面倒くさい。

 そんなタイミングで、後ろに腕が引かれる。


「……っ、」


 まあ、私の腕を無言で引いてくる人なんて限られるけど、とりあえず引っ張った張本人を睨んでおく。


「あ、ごめん。別に驚かせるつもりはなかったんだけど」

「驚かせるつもりだったのなら、余計に質が悪い」


 困った顔をしたところで、私は覚えているからな。


「で、見つかった?」


 こうして合流した時点で、見つかってないのは丸分かりだけど。


「あの……お化け屋敷にいるって」

「あの途中で見掛けた?」

「そう」


 ……あいつら、本気で殴っても許されるよね?

 耳元で大音量を流してもいいよね?


水森みずもりさん、落ち着いて」


 どーどー、と鳴宮なるみや君に落ち着かされるものの、私の中では一発浴びせるのは、もう決定事項である。


「それで、お化け屋敷……お化け屋敷か」

「苦手?」

「微妙」


 慣れていると言えば慣れているし、駄目だと言えば駄目だ。


「というか、お化け屋敷に入ったなら、出てくるのを待てば良くない?」

「……それはそうなんだけど」


 入ってこいって言われたのか。


「鳴宮君」

「ん?」

「どうせあの二人、まだ一緒なんだよね?」

「まあ、そうだね」


 何故か顔を引きつらせているけど、記憶が無くなっても、察してくれるのは有り難い。


「それじゃ、私からの伝言を頼まれてくれない?」

「一応は聞くけど、何て?」

「私に殴られたくなければ、さっさとこっちに来い、って」


 私はそこまでお人好しではないし、気長でもないのだ。


   ☆★☆   


 鳴宮君に伝言を頼んだものの、距離などを考えたとしても、あの二人がすぐに来るはずもなく。


「っ、ごめんね。大丈夫?」

「大丈夫」


 うっかりとはいえ、ぶつかってしまったので謝りながら、尻餅を付いた男の子に手を差し出せば、彼はその手を取りながら立ち上がる。


「怪我は無さそうだね」

「というか、一人? 親はどうしたの?」


 私が怪我の確認をしていれば、隣で様子を見ていたらしい鳴宮君が男の子にそう尋ねる。


「知らない。だから、捜してた」

「何だ。迷子か」

「迷子じゃない! 迷ったのは、みんなだ」


 あ、この子は自分が迷子だって認めたくない方の子か。

 でも、それなら――


「何してるの?」

「方向確認」


 遊園地内が掛かれたパンフレットを取り出して、現在地を確認する。

 次に、男の子が来た方向と迷子センターのある方向を確認する。


「もしかして、捜すの? この中から、この子の家族を」

「放置するわけにも行かないでしょ。しかも、迷子センターで大人しく待つようなタイプの子じゃないと思うし」


 桜峰さんたちのこともあるから、この場をあまり離れたくはないけど、かといってこの子を放置するわけにもいかない。

 どうするべきかと、二人して男の子に目を向ける。


「それに、放置したらしたで、絶対に後で気になるだろうし」


 鳴宮君が気にならなかったとしても、私は気になると思うから。


「大人だからって、迷子にならない訳じゃないし」


 現にねぇ……と、鳴宮君に目を向ければ、そっと逸らされる。自覚があるようで何より。


「それじゃ、行きますか」

「あの二人はどうするの?」

「連絡しておいてくれると助かるかな」


 完全に任せっぱなしだけど、私だとちゃんと答えてくれないんだから仕方ない。


「……お姉ちゃんたちって」


 おや、てっきり小母おばさん扱いされるかと思ったけど、『お姉ちゃん』で来たか。


「もしかして、デート、ってやつ?」

「あー、ちょっとちが……」

「あ、分かる?」


 違うかな、と言い切る前に遮られる。

 君が好きなのは桜峰さんだよね?


「違うから。このお兄ちゃんには、他に好きな人が居て、私は別の用事で一緒になっただけだよ」

「ふーん、そうなんだ」


 少年は大して興味がなさそうに返す。

 まあ、見知らぬ人たちの関係なんか、どうでもいいか。


「それじゃ、君のご家族が居ることを願いつつ、行ってみようか」

「行くってどこに」

「迷子センター」


 大人なら、自分の子供が迷子になれば、一度ぐらいは顔を出すかもしれないからね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る