水森飛鳥と各ルートⅢ(鳴宮郁斗ルートⅣ・たとえ狙っていなくても、する時はする)

   ☆★☆   


「あの二人、どこ行きやがった」


 周囲に目を向けながら、走ったり、歩いたりしてはいるけど、どうも見つかりそうにない。

 これは、女神のせいじゃない。

 桜峰さくらみねさんたちの判断によるもの。

 だから、この件に関しては、女神を責めるのは間違いだ。


「……」


 多分、夏樹なつきも一緒に居るだろうから、桜峰さんが修学旅行の時みたいなことにはならないはずだ。

 でももし、それでなってたら、一発殴ってやろう。


「……」


 連絡は、取れる。

 だから、こちらから連絡はしてみたのだが、はぐらかされてしまった。

 もしかして、敵に回すと意外と面倒くさい? 主人公ヒロイン様。


「後は、あの二人の行きそうな場所……」


 遊園地のマップとにらめっこする。

 園内はアトラクションとか豊富だけど、どこかで休んで飲み食いしてる可能性もある。


 ――大丈夫。


 ふと、そんな声が聞こえた気がした。

 何をもって、大丈夫だと声の主が判断したのかは分からないが、その声が私のことを思ってくれているような気はしてるから、少しだけ信じるだけ信じてみることにしつつ。


「……何やってんだ、あいつは」


 何気なく目を向けたのが、良かったのか悪かったのか。

 とりあえず、見つけてしまったので、電話してみる。


『どうした?』


 番号登録してあるから、いちいち確認する必要ないんだけどさ。目の前で電話に出てるとこ見てると、ちょっと面白い。


「あんた、何してんの」

『は?』


 まさか、同じ場所に居るとは思うまい。

 でも、さすがにノーヒントなのは可哀想なので、答え同然のヒントを出してやる。


「周囲を見回してみ」

『は――』


 そのまま素直に見回す辺り、風弥かざやが風弥であることを示しているのだが、こちらに気づいたらしい彼の目が見開かれれば、軽く手を振り返してやる。


『な、な……!?』

「もう近くに居ること気づいたんだから、切ってよ」


 とりあえず、そう声を掛けながら通話を止め、彼の方へ行く。


「何で居るんだよ」

「それはこっちの台詞」


 少しだけ無言で視線を交わし、風弥が先に口を開く。


「友達と来ただけだ。お前は?」

「こっちも一緒。夏樹と、他二人とね」

「見るからに一人だが、他の連中はどうしたんだよ」


 私が一人だからか、気になったらしい。


「はぐれました」

「は?」

「だから、はぐれました。そして、今は捜してます」

「……」


 風弥から何とも言えない目を向けられた。


「お前、そういう時どうするべきなのか、分かってるよな? つか、一番分かってそうなお前が単独行動とか、どういうことだよ」


 さすが、風弥さん。私のことを分かっていらっしゃる。


「しょうがないじゃん。電話で聞いてもはぐらかされるんだし」

「……いじめられてないよな?」

「それは無いねぇ」


 もし仮にあったとしても、言わないけど。


「それにしても、『友達と・・・』、だっけ?」

「ああ、そうだ」


 私に渡すものかと言わんばかりに、風弥の腕にしっかりとしがみついている茶髪で小柄な女の子に、苦笑いするしかない。

 多分、この子は風弥のことが好きなんだろうし、風弥もうっすらと理解してそうではあるのだが、個人的に小夜さやを推したい身としては、複雑である。


「ちょっと、この子、誰?」


 わぁ、初対面なのに、敵視されてる。


「あー……」


 風弥は風弥で、何て説明するべきか、迷ってるなぁ。

 まあ、違う世界での友人や同級生なんて言えないだろうし……助け船を出してやるか。


「同じ趣味の、友人だよ」

「同じ趣味?」


 疑いの眼差しが強くなる。

 でも、嘘は言ってないから、どうするべきか。


「疑ってるとこ悪いが、こいつにはちゃんとした相手がいるから、無駄だぞ」

「それって、さっき言ってた連れの人たち? それとも、あそこで見てる人たち?」


 ……先輩たち、初対面の子に尾行してることバレてる上に指摘されてるし。

 それにまあ、私も分かってたから、放置してたんだけど。


「あの人たちは……まあ、放置しておいていいから」

「大丈夫なのか? ストーカーだったりしないよな?」

「学校の先輩と後輩だから大丈夫。別に心配することもないのに、こっそり付いてきたみたい」

「……貴女、鈍感とか言われない?」


 何故か、訝るような目を向けられる。


「面と向かって言われたことはないかなぁ」


 それでも自分に向けられる感情は察知できたこともあれば、自覚したこともあるんだけどね。


「こいつ、分かってて言うときあるから、付き合いが長くなってきた俺や幼馴染連中ですら分からない時があるんだよ」


 風弥がやれやれと言いたげに、溜め息を吐く。


たち悪いタイプじゃない」

「初対面の人に言われたことはないけどね」


 でも、何だか嫌なタイプに感じないのは、彼女と似た人物を知っているからだろうか?


「そういえば、まだ聞いてなかったけど、お前の異能って何だ」

「今更だね」

「今更だけど、聞いてる」


 ふむ……


「それじゃ、彼女への自己紹介ついでに教えてあげるよ」

「助かる。あと、『彼女』じゃない」


 意味が違うんだけどなぁ。


桜咲さくらざき高校二年、水森みずもり飛鳥あすかです。異能は音響操作――調律チューニング

「それじゃ、私も言わないとね。黎森れいしん高校一年、吾妻あがつますずめ。異能は制限付きだけど、飛行能力だよ」


 おや、年下でしたか。

 そして、飛行能力……!


「こいつの異能が気になってるところ悪いが、制限付き、だからな?」

「分かってるよ」


 制限付きでも、羨ましいものは羨ましいのだ。

 こっちだって、名前に鳥があるのに、飛行能力系じゃないし。

 ――なんて、言ってる場合じゃない。


「それじゃ、そろそろ捜しに戻ることにするよ」

「そうか」

「ねぇ、一応連絡先を教えてもらえない?」


 ……雀さん、初対面の人相手によく言えるものである。


「その方が、私たちが見つけたときに教えられるでしょ?」

「それは有り難いけど、連絡なら、風弥通じてでも良いんじゃないかな」

「確かに、その方が正確だろうけど、女同士の方が良いってこともあるでしょ?」


 あー、否定できない。

 しかも、何だか強気だ。


「それとも、私が信頼できない?」

「いきなり初対面で信頼しろは無理かなぁ……まあ、私だから良いけど、初対面の人相手にあまりそういうこと言わないようにね?」

「するわけないでしょ。でも、貴女は大丈夫だと、自分の目で見て、そう判断しただけだし」


 その言葉に、ふと鳴宮なるみや君とのやり取りを思い出す。


『だから、たとえ水森さんが俺に嘘を吐いていようと、俺は自分の目で見た水森さんしか信じないから』


「……自分の目で見て、か」


 私の異能は耳で捉えるものだけど、自分の目で見ていないのに決めつけるのは良くない、か。

 正直、彼女の本心は分からないけど、桜峰さんたちのときにも言っておいたことを伝えておく。


「私、あまり電話とかメールとか、通信アプリ系はしないから」

「こっちもそんなにしないから大丈夫」


 風弥以外とは、という前置きが聞こえたような気がしたのは、きっと気のせいだよね。

 まあ、そんなやり取りもあって、雀さんと連絡先を交換しました。

 とりあえず、二人にも夏樹たちの画像を渡しておいたので、アトラクションの待ち時間の暇潰しにはなるのではなかろうか。


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