水森飛鳥と各ルートⅢ(鳴宮郁斗ルートⅡ・目的)
見た目に反し、基本的に真面目な性格で、楽しむときはきちんと楽しむと言った、副会長である
いわゆる『同級生・同学年枠』の一人で、咲希とは同学年ということもあり、他と比べて関わり合いは多め。
それもあってか、少しずつ恋愛感情も芽生えていくものの、他の役員と話す彼女を見て、次第に自覚するようになる。
ただ――……
☆★☆
さて、遊園地である。
そして、私は頭と胃が痛い。
「……」
「……」
「……」
「……」
正直、『デート』どころか『ダブルデート』などではなく、どちらかと言えば、『修羅場』と言った方が近いのでは無かろうか。
「……気持ちわる……」
だがそれも、全員が全員ダウンしていなければ、きっとそのような空気はある意味、不可避だったはずだ。
では、なぜ全員ダウンしているのかを問われれば、答えは簡単で、ジェットコースターを別機種で二回連続で乗ったからだ。
「まだ視界が回る……」
「私はようやく、落ち着いてきたよ……」
それは良かったな。
私はまだぐるぐるしてるよ。
「咲希。私は言ったはずだよ。初心者に絶叫コースターシリーズは止めてくれ、と」
「荒療治でいけるかと思ったんだよ……」
「慣れてもいないやつ相手に荒療治もクソもあるか」
ああ、あんまり意識が回らず素が出てる……今更な気もするけど。
ちなみに、私たちが訪れた遊園地には『普通』のジェットコースターと、『絶叫コースターシリーズ』と呼ばれる、普通とは違うジェットコースターの二種類が存在しており、別機種で乗った――つまり、前者→後者の流れで乗った結果が、この有り様である。
「それじゃあ……次はどうする?」
「とりあえず、もう少し休むか、メリーゴーランドとかゆっくりしたものに乗りたい……」
さすがにジェットコースター系はごめんである。
「お化け屋敷は?」
「ゆっくり系って言ったじゃん。お化け屋敷とか、また叫ぶ系だし」
いや、叫ばない人とか居るかもしれないけど。
「意外と怖くないかもよ?」
「怖い・怖くない以前に、心臓に負担を掛けたくないだけだよ」
むぅ、と桜峰さんは園内マップとにらめっこを始めるが、どれだけ絶叫系が好きなんだこの子は。
「……」
とりあえず、園内で買った飲み物に口を付ければ、ようやく楽になってきたらしい。
「二人はどう? 回復してきた?」
「もう少し待ってー……」
鳴宮君は手を振って、そう告げるが、夏樹の方からは返事がない。
「生きてる?」
「生きてはいる」
そう返せるってことなら、大丈夫そうか。
駄目そうなら、何とかしてやろうかと思ったんだけど……とりあえず、二人が回復するまで、私も園内マップを見ているか、と目を通す。
観覧車は最後にしようという意見は桜峰さんと一致したこともあり、男性陣には何とかその点は了承してもらった。ほとんど桜峰さん効果だろうけど。
「……」
だから、マップに顔を向けながらも、こちらに目を向ける彼女と、俯いたままながらも、視線はこちらにも向けていた男性陣に気づかなかったのである。
女神の影響を受けているのなら、入場時に何か言ってきそうな彼が何も言ってこなかったことについても、何一つ疑問に思うこともせず、ただ私は――いつものように接してしまっていたのだ。
☆★☆
さて、そもそも私たちが遊園地に来たのは、『ダブルデート』という形を取り、以前と変わってしまった男性陣をどうにかしよう、というのが目的だったはずだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
だから、どちらかと二人っきりになったところで、何もおかしなことは無いはずなのだ。――二人揃って、無言でなければ。
「……何か、買ってこようか?」
「俺は今のところ、いらないかな」
笑顔での即答、怖いよ。鳴宮君。
あと、どこにも行かせないとばかりに、腕を掴むのは止めてほしい。
え、何。実はあまり変わってなかったりするの?
それとも、女神のせいで、拍車でも掛かったの?
「……」
もし仮にそうだったとしても、桜峰さんに対して、会長たちほど分かりやすい態度じゃないだけに分かりにくい。
「……それで」
「……?」
「本当はあの子の側に居たくて仕方がない君が、どうして私と残ったの?」
だから、素直に聞いてみることした。
「何のことかな?」
不自然な間は置かれなかったけど、やっぱり、とぼけるよね。
「私としては、変に遠回しな質問はしてないつもりなんだけど」
本当、何で彼を差し向けてきたんだろう。
「私に何があったのか、聞くように頼まれでもした?」
「どういう意味?」
本当に分からない……わけないよね。
「君に記憶があるのかどうかは分からないけど、こっちとしては一年以上、接してきたこともあって、何となく察しが付くんだよね」
そう言いながらも、ずっと立ちっぱなしも疲れるし、座っている彼を見下げるような状態も嫌なので、とりあえず元居た場所に腰を下ろす。
「だから、私がそう思い込んでいるだけならいいけど、もし私の推測通りであれば、『たとえ誰が来たところで話すつもりはない』って伝えてくれると助かるかな。咲希は相手が君か夏樹なら、私が話してくれるとでも考えたんだろうけど……」
視線を彼の方に向けてやる。
「そう簡単に私が話すと思っているのなら、大間違いだから」
もし本当にそんな考えなのだとすれば、甘いとしか言いようがない。
一体、私がこの事についてどれだけの人を相手に、どれだけの時間を掛けて話してこなかったと思ってるんだ。
「……そっか」
何も返事がないな、とは思っていたけど、どうやらこちらの言い分を聞いていただけらしい。
「それじゃ、次はこっちの番だね。君の予想通り、俺は桜峰の希望で、ここにいる」
「……」
「でも、これは桜峰だけじゃない。他の役員たちの希望でもある」
「は……?」
何で、そこで他の役員たちが出てくる?
彼らは桜峰さんに振り向いてほしくて、頑張っていたんじゃないのか?
「理由が分からないみたいだけど、そこは俺にも分からない」
「……」
「けれど、俺になら聞き出せるかもしれないって、思ってくれた以上、それに応えないわけにはいかない」
あー、なるほど。そういうことか。
「だからーー」
「だったら、なおさら答えられない」
答えられるわけがない。
「以前の君なら、私が言いたくないことは何となくでも察して聞いてこないし、絶対に聞かないといけないことでも、そんな方法で聞いてきたりはしなかったはずだよ」
以前の彼相手なら答えるかどうかを聞かれたら、ヒントレベルで口を滑らせることはあっても、最終的な答えはNOだろう。
「だから、私は何も答えないし、言うこともしないよ」
今度はまた腕を掴まれる前に、その場を離れる。
「本当、頭が痛い……」
痛くて痛くて堪らないのに、頭痛薬なんて持ってない。
とりあえず、園内にある自販機で買った飲み物を口に付ける。
「こういう時、『あの人』はどうするんだろ……」
もう二度と会うことのない『彼』は、こういう時、どうするのだろうか――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます