水森飛鳥と各ルートⅢ(鳴宮郁斗ルートⅠ・いざ、遊園地へ)


 鳴宮なるみや君が、女神の手に落ちた。

 その事について、後悔しているかどうかを聞かれれば、半分しているとしか言い様がない。

 「何故」と聞かれたところで、ちゃんと説明できるはずもないのだが、それでも私が原因の一端を担っているのは間違いないし、私が近付かなかったために、女神がチャンスだと思ったのかもしれない。

 てっきり、彼をスパイとして利用している部分もあったのかな、とは思ったこともあったのだが、こうなってみるとその可能性もついえたと言えるのかもしれない。


「……本当に」


 勢いよく吹いてきた強風で髪が舞う。


「見事なまでに八方塞がりだ」


 本当に――笑えない。


   ☆★☆   


 今では落ち着いてきているとはいえ、以前夏樹なつき桜峰さくらみねさんに付きまとっていた時に出た対策の一つとして、『ダブルデート』なるものがあったのだが、決行することになってしまった。

 ここのところ落ち着いているし、何か変な方向でこっちに意識を向けてるから大丈夫だと思っていたのだが、どうも私がいない時とかの夏樹は以前と変わらない上に、そこに鳴宮君まで加わったから、桜峰さんと話すことすらままならないのだと生徒会役員たちから教えられた。


「それで、『ダブルデート計画』ね……」


 正直、する必要も無いと思ってたから、何も準備とかしていないのだが、運が良いのか悪いのか、十一月の半ばということもあり、各地でイルミネーションやらクリスマスイベントやらが始まりつつある。


「クリスマス、か……」


 何だかんだで、みんな色々と予定があるだろうから、春馬ハルに予定を聞いたりもしないといけない。もしかしたら、一人で過ごすことにもなるかもしれないし。

 それに『ダブルデート』だと言うのだから、四人で行くのは決まっているようなものだが、さてはて最後の一人として、誰が来るのやら。


   ☆★☆   


「それで、どこに行くの」


 桜峰さん曰く、場所は私たちが好きなところにしていいと言われたらしいので、場所決めである。

 ただ、こちらから近付くなと言ったからか、彼女の方から来なかったわけだけど、そわそわと何か話したそうにしていたので声を掛ければこれである。

 というか、この子と一対一サシで話すの、いつ振りだろうか。これが初めてじゃないはず……だけど。


「え、一緒に決めてくれないの?」

「候補は出すけど、どうせみんなで遊びに行くだけなんだし、そんなに悩んだりしなくても良いんじゃないか、ってこと」


 そう返せば、悩ましげに桜峰さんが唸る。


「ちなみに、候補って?」

「定番から行けば、遊園地、水族館、映画館、動植物園。手近で済ませるなら、ショッピングモールや点灯開始したイルミネーションを見て回るとかの意見もあるけどね」

「やっぱり、そうなるかぁ……」


 桜峰さんが悩ましげな声を上げる。

 でも、本当にどこにしようか。

 それ次第では、対応を変えないといけなくなる。


「まあ、さっき言った中から絞るなら、遊園地、動植物園、ショッピングモール、イルミネーションぐらいだろうね」

「何で?」

「暗いから」


 別に暗いのが駄目と言うわけではないが、何をしているのか観察する際に不便なのである。

 水族館は別に暗くはないが、あえて暗くしてるスペースもあるだろうから、そこに入られると、やはり観察しづらい。


「それじゃ、遊園地がやっぱ無難かなぁ」

咲希さきが、行きたいなら、遊園地で良いんじゃないかな」

「うー、でも期間限定って言うところでは、イルミネーションも捨てがたい……」

「イルミネーションはクリスマス本番か、年明けでも良いんじゃないかな。今だと結構長いことやってるところもあるし」


 他の誰かとのデートにでも取っておけばいいと思うよ、私は。


「よし、それじゃあ、遊園地にしよう」


 ちなみに、最後の一人には桜峰さんから伝えておくと言われたので、お任せした。だって、私は誰が来ることになっているのか知らないし、教えてもらえなかったから。

 けどまあ、大体予想は出来るし、出来たとしてもそういうのは裏切られることもあるので、当日まで誰が来るのか、楽しみにさせてもらうことにしよう。





 ――で、当日。

 私の方は私の方で、目的となる人物が来ないと意味がないので、目的となる人物こと夏樹を連れ出す担当である。

 目的地である遊園地へ何とか連れ出せば、きゃあきゃあ騒ぐ女性たちの声が聞こえてきた。あ、デジャヴ。


「……何か、見覚えがあるんだが」


 おや、女神に操られかけていても、その記憶はあるのか。


「ちょっ、ごめん。待ち合わせしてるから、退いててくれないと、気づいてもらえないかもしれないから……っ」


 大丈夫。ちゃんと気づいてます。

 つか、目立ってるし、やっぱり『彼』なのか。


「……帰ろうかな」


 来たばかりだけど、悪目立ちしそうなので、帰りたくなってきた。


「ちょっ、帰らないでぇっ!」

「……そんなに強く引き留めなくても、本気で帰らないから大丈夫だよ。咲希さき


 その場を離れようとすれば、がっちり腕を捕まれたので、とりあえず、そう返すのだが。


「……」

「桜峰?」


 何で、貴女のもう片方の手は彼に繋がっているのだろうか。


「ねぇ、咲希。一応、確認するけど、もしかして、今日って……」

「うん、このメンバーだよ」


 輝くような笑顔で、彼女は私が告げなかった言葉の先を肯定した。


 ――ああ、頭が痛い。


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