水森飛鳥と各ルートⅡ(東間未夜ルートⅣ・再会×困惑×約束)


飛鳥あすか


 一体、いつ頃気付いたのだろうか。

 まるでこちらの気持ちを落ち着かせるかのように、私の肩に手を置いた夏樹なつきが声を掛けてくる。


「何だ。夏樹まで居たのか」

「まあな」


 相変わらずだなぁ、と言いたそうな反面、逃げられそうにないなと言いたげな顔をする風弥かざや


「また後で、話せる?」

「飛鳥?」

「ちゃんと説明してもらうし、こっちからも説明する」

「おい」


 夏樹が責めるような言い方をしてくるが、こちらの事情を話さなければ、風弥も話してくれないだろうし、何より対等フェアじゃない。


「もちろん、この事は小夜さやにも話さない」

「……っつ!?」

「だから、また後で・・・・話して」


 私たちが居たと分かった時点で、あの驚きようなのだ。

 そのことから、当然小夜に話してないことは推測できる。


「悪い。そして、ありがとうな。飛鳥」

「それは、全部お互いに話し終えてから、ね」


 まだ謝罪も感謝をするのも受け入れるのも早いから。


「さて、それじゃ私は戻らないと」

「……ん? お前ら一緒に居たんじゃないのか?」

「かぁ~ざぁ~やぁ~くぅ~ん。私たちがいつも一緒だと思わないでくれるかな?」

「違うのか?」

「ああ。お前と飛鳥を見掛けたから追ってきただけだよ」


 こっちにバレてないと思っているのかいないのか、平気な顔で嘘を吐く夏樹に半目を返し、目を風弥に向ける。


「それじゃあね」

「ああ」


 そのまま別れる。

 だって、連絡先は知っているから、いつでも連絡は取り合えるしね。


「夏樹はどうする?」

「帰る。お前はちゃんと先輩と別れてこい」

「その言い方だと、何だか語弊があるんだけど……まあ、いっか」


 きちんと挨拶も無しなまま、一人ぼっちにさせているのは事実だし、夏樹とも別れて、副会長が居るであろう場所に向かおうとすれば、女性たちの小さな黄色い声が聞こえてくる。


「あらー……」


 そういや、待ち合わせ場所に来るときも、この人は引っ掛かっていたんだっけ、と思い出す。

 文句言われる覚悟で、携帯で連絡する。


「……もしもし」

『……』


 無言、だと……?


「あの、先輩……」


 出てくれただけでもマシだと思いたいが、どうやら思っていた以上にブリザードを食らうことになりそうだ。


「……あの、会話中に勝手に離れてすみません」

「……自覚はあるんですね」


 大分近くまで来たので、携帯を切って、恐る恐る声を掛ければ、睨まれる。


「いやまあ、ちょっと思わぬ知り合いを見かけた上に動揺していたので、気が回りませんでした」

「そうですか」


 どうしよう。声のトーンが戻らない……っ!


「まあ、こうしてちゃんと戻ってきてくれましたから、良しとしましょう」

「えっと……ありがとうございます……?」


 お礼を言うべきなのかどうかは分からないけど、とりあえず言っておこうと思う。


「それで、その知り合いとは話せたんですか?」

「え? ああ……まあ、何とか」

「そうですか」


 うーん、これは反応に困るぞ。

 しかも、話が続かない。


「……まだ」

「はい」

「まだ、相手が僕だったからともかく、次の人たちの時には、なるべく今みたいなことは無しにしてくださいよ」


 それはきっと、先輩なりの気遣いなのだろう。


「確約は出来ませんが、分かりました」

「逆にそこの点を確約してほしい所なんですが……まあ、無理にとは言いません」


 その後、先輩が最後に家まで送っていくと言い出したために、丁重にお断りし、それじゃ家の近くまでとも言われたのだが、それも丁重にお断りさせていただいた。

 防犯面を気にするならアレだろうが、家の場所を把握されても困る。


「大丈夫ですよ。私、自衛手段は持ち合わせてるので」


 どんな手段かは言わないけど。


「……」

「……」

「……」

「……はぁ」


 信じているのかいないのは分からないけど、何か溜め息を吐かれた。


「じゃあ、明日。ちゃんと学校に来てください。それが何も無かったという証拠としておきます」

「了解しました」


 結局、現地解散となったものの、そういえば、と思う。


「先輩の異能、聞きそびれたなぁ」


 多分、私たちを助けに来てくれたときに一番乗りだったことから、戦闘系異能の可能性もあるけど。


「ま、いっか」


 別に知ろうが知らまいが何かに支障が出るわけでもないし、それよりも目の前の問題だ。


「……って、あれ?」

「……」


 一体、いつからそこに居たのだろうか。

 玄関扉の前の人影に、首を傾げる。


「……夏樹?」

「……」


 名前を呼んでも、目を向けられただけで、何も返してこない。


「ちょっ、冷たっ!?」

「……寒い」

「当たり前でしょ!? まさか、ずっと外で待ってたの?」


 軽く手を握ってみれば、予想していたよりも冷たかった。


「ほら、中に入るよ」

「ああ……」


 夏樹の背中を押しながら、家の中へと入っていく。


「……」

「……」

「……風弥の件」

「……!」


 いきなり出された風弥の名前に、思わず反応してしまう。


「ちゃんと、何を聞くのか、何をどうするのか決めないとな」

「……そうだね」


 何を聞くにしても、そのほとんどは話を聞いてからにはなるだろうけど。


「正直、今は夏樹が一緒にいてくれて助かってる」

「何だそりゃ」


 夏樹がそう返してくるのも当たり前で、私の言葉は微妙に判断しにくいことだろう。

 けど、がらにもなく動揺していた時に、上手いこと入ってきてくれた感謝しているのは事実だ。


「飛鳥? どうした?」

「いや――頼りにしてるよ、幼馴染殿」


 私は、といえば、頭を夏樹の背中に押し付けて、床を見ている状態だからか、夏樹がどんな顔をしているのかは分からない。

 ただ、今いる場所が家の中で良かったとしか言いようがないことは、きっと分かってくれているはずなのだ。


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