水森飛鳥と短いようで長い修学旅行Ⅱ(行ったり来たりの一日目)
さて、修学旅行当日である。
私と
本当、何で修学旅行同士が同日に激突してるんだよ。みんな以上に疲れる自信があるぞ。
「
「あ、ありがとう。奏ちゃん」
「あ、ありがとう」
私に対する積極さはどうしたんだ、と思いつつ、私も奏ちゃんから受け取って、口に入れれば、ぱきんと棒状のチョコレート菓子が割れる。
外の風景を見ながら、修学旅行先が国内で良かった、と思う。
金持ち校だと、修学旅行は国外みたいなイメージがあるけど、
国外だと、行き先次第では治安の心配があるし、校外とはいえ、女神の影響が無いとも言えない。
「……それにしても、良かったね。奏ちゃんたちが一緒の班になってくれて」
「あ、うん。二人とも、ありがとう」
まあ、さすがに桜峰さんも、女子たちから距離を置かれていることには、気付いてるみたいだし。
「気にしないで。クラスメイトじゃん」
「
今まで同性から言われたことが無いってぐらいに、嬉しそうな顔をする桜峰さんに、奏ちゃんと顔を見合わせ、肩を竦める。
「ありがとう」
「はいはい。修学旅行は始まったばかりなんだから、泣かないの」
ぽんぽん、と頭を撫でてやる。
「泣いてないもん」
「いや、泣いてるし。私たちが虐めてるみたいだから、とりあえず、涙引っ込めてくれない?」
そして、このことを知った生徒会陣営が怖い。
私たちは虐めてないよ? 桜峰さんが、予想外に感動して泣いただけで。
「見えてきたみたいだよ。目的地」
「
「なぁに?」
涙を拭きながら、桜峰さんが目を向けてくる。
「何があるか分からないけど、何かあったら、すぐに呼ぶように」
目的地に着いて、荷物を手にしながら、桜峰さんに言う。
「え? あ、うん」
戸惑い気味に桜峰さんが頷く。
まあ、文化祭での件もあるから、注意のようなものだ。
☆★☆
大きな荷物は宿のそれぞれの部屋に置いて、貴重品や必要なものを手にしたら、クラスごとのバスに再度乗り込む。
ここで、やはり日程の組み方がおかしいと言ってはいけない。
日程の組み方は、きっと女神辺りがイベント優先で考えたのだろう。だからか、班行動が二日目と三日目になっているんだと思う。
「……ったく、無理に関連づけなくとも、他にも方法はあったでしょうに」
班の子たちとバラバラになった桜峰さんが、偶然とはいえ彼女を見かけた
「……」
ちなみに、夏樹は今ぼんやりとしている。
おそらく、向こうに意識を飛ばしているのだろう。それなら、と私も
「……」
あ、眩しい。
そっと目を開けば、見慣れたクラスメイトたち。
こちらも修学旅行一日目だが、あちらとは違って、班行動である。
「ぼんやりしているけど、大丈夫?」
「だいじょーぶ」
向こうと違って、こちらは歩いたりしないといけないからね。
班編成は『仲良し四人組』――小学校からの付き合いの三人と組んだ班である。つまり、夏樹も一緒。
「一日目だが、調子はどうだ?」
「始まって数時間だけど、残りの日数、持つかどうか。もう不安」
知識があるだけに、下手に手出しも出来ない。
「こっちはこっちで、あの二人の進展具合を見てないとなぁ」
目の前に居るのは、一組の男女――私たちの友人にして、親友である。
「修学旅行中にくっつくと思うか?」
「無理だろうね。期間が短すぎる」
けれど、一年という期間が決められてる向こうよりは、余裕があるだろうし、マシだと思う。
二人を見ながら、デジカメで二人を撮る。うん、よく撮れてる。
「二人とも、移動するよー」
「今行くー」
呼ばれたので、二人の方に歩いていく。
「なぁに、話してたの?」
「何でも無いよ。ただ、撮ってただけ」
ちなみに、デジカメ撮影はあちらでは行っていない。
「二人も撮ろうか?」
「別にいいよ。まだ明日もあるし」
向こうと違って、こっちでは時間のほとんどをこのメンバーで過ごすことになりそうだしね。
……いつも通りだという突っ込みは引き受けない。つーか、一緒に居る面々なんて、決まっているようなものでしょ?
「夏樹」
「何だ?」
「お互い、頑張ろうね」
こっそり話し掛ければ、同じようにこっそり返される。
向こうでは、そろそろバスから降りないといけない頃だろうか。
「タイミング見ながら、戻らないとねー」
夏樹を一瞥すれば、「ああ、そうだな」と小さく頷かれたけど、どのタイミングで抜けようか。
「無理だけはするなよ」
「しないよ。そっちこそ、無茶だけはしないでよ」
そう言って、予定を確認する。
「……何こそこそしてるのよ」
疑いの眼差しを向けられた。
「あ、あー!
「まあ、そうなんだけど、誰のせいだと……って、マズっ! 電車の時間、迫ってるし!」
そんな小夜の言葉に、慌てて移動を始める。
「ったく、本当に慌ただしい一日目だなぁっ!」
本当にね。
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