雛宮未季と魚住新はそれぞれの過去を語るⅢ(口論の後に)


 魚住うおずみ君の姿を見たとき、仲間が来たという喜びと私のミスにより巻き込んでしまったという罪悪感が合わさったことで、複雑な気持ちになった。


   ☆★☆   


「理不尽じゃありません? 私は貴方が彼女と何していようと黙認していたのに、私が同性の友人以外と話したりするのを認めないとか」


 私は今、イライラしている。

 魚住君と(通話しながら)今後についての作戦会議中だったのに……!


 さて、簡単な状況説明だけど、そもそも我らが生徒会長、獅子堂ししどうかなめの一言が原因である。


「お前、最近別のやつと一緒じゃないか?」

「はい?」


 いきなり何を言い出すんだろうか、この男は。

 しかも、聞き方が“妻の浮気を疑う夫”みたいになってるし。

 あと、別のやつって、まさか魚住君のこと? 彼は仲間なだけなんだけどね。

 ちなみに、そんな彼は別の場所で、この会話を電話越しに聞いているはずだ。多分。


「とりあえず、最初から話してくれません? 状況把握が出来てませんから」


 とにもかくにも、説明プリーズ。


「何人かが、お前とそいつが話しているのを見た。それだけだ」


 おい、ちょっと待て。


「それ、説明になってませんよね? 例えば、どんな話をしていたとか、どんな雰囲気だったとか、あるんじゃないんですか?」

「俺が知るか。文句があるなら、そいつらに言え」


 自分の早合点が原因なのに、責任転嫁ですか。へー。


「それにしても、わざわざそれだけのためだけに、来たわけではありませんよね?」


 とりあえず、確認だ。

 お前、何しに来た。


「婚約者がいる身でありながら、よくそんな行動が出来るな」

「まさか、私を咎めに来たのですか?」

「理解が早くて助かる」


 助かるじゃねーよ、という突っ込みを耐えた私を誰か褒めてください。


「要さん」

「何だ」

「もし、委員会や様々な準備でのことでしたら、どうなさるおつもりですか?」


 これで妥協してくれなかったら、反論しよう。


「そんなの、接する回数を減らせば良いだろ」


 どうやら、反論してほしいらしい。


「要さん」

「何だ」


 先程と似たようなやりとりだから、反応は薄い。


「以前は優秀かと思っていたのですが、どうやら私の勘違いだったようですね」

「何だと……?」


 残念だ、という雰囲気を出せば、彼がぴくりと反応した。

 それで最初の方に繋がるんですが……


「理不尽じゃありません? 私は貴方が彼女と何していようと黙認していたのに、私が同性の友人以外と話したりするのを認めないとか」

「それがどうした。それに、お前と咲希さきを一緒にするなよ?」


 全く、この人は――


「私は『彼女』と言っただけで、一言も名前を出してないのですが」

「ほとんど一緒だろ。それに、あいつとお前は違う」

「ええ、確かに違います。けれど、自分は良くて、他人は駄目とか、自己中心的すぎます」


 婚約者がいるから、異性に触れるな?

 だったら、自分の行動を見てみろってんだ。


「お前が何を言おうと、俺は俺だからな。変えるつもりはない」

「そうですか」


 それでは、仕方ない。


「では、私も私のやり方でさせてもらいます」


 それに、私は貴方に興味なんてありませんからね。

 私はそのまま、その場を後にした。





「本っ当、最っ悪! こっちが下手に出てるからって、人の振り見て我が振り直せって習わなかったのっ……!」

「はは……」


 苛立ちから文句を言う私に、魚住君が苦笑いする。


「けど、獅子堂の気持ちも分からなくはないな」

「は?」

「いや、全部じゃなくて、一部だけだぞ?」


 「推測が正しければ、だけど」と魚住君は付け加える。


「推測?」

「多分、雛宮は聞かない方がいいと思う」

「何それ」


 それはつまり、私が知らない方がいいという意味なのか、そもそも私には話せないような内容なのか。


「ん~。多分、そのうち分かるんじゃないのか?」

「何なのよ、それ」


 けど、そのうち分かると言うのなら、待ってみようとは思う。


「で、少しは落ち着いた?」

「え……? ……あ」


 別に魚住君が狙って私を宥めたわけではないのだろうが、私自身、いつの間にか落ち着いていたのも、また事実だった。


「もしかして、気を使わせた?」

「電話越しに怒ってるんだろうな、ってことは予想してたから、雛宮が思っているほど気は使ってない」

「それでも、お礼は言っておくよ。ありがとう」


 そう告げれば、「そう思うなら、礼よりも情報寄越せ」と返されてしまった。


「分かった。じゃあ、後でメールで送るから」

「ああ」


 魚住君が頷くのを見た後、私は次の授業へと向かった。

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