第54話 蚤の市



嫁さんからのリクエストで、店の通りに面した壁を取り壊しガラスを嵌めたショーウィンド設置という突貫工事で遅れていた王都にある毘沙門の支店が完成した。

工事自体はスキル岩石創成で簡単に終わっていたけど、スキルで簡単リホームは流石に伏せておいた。


ちなみに毘沙門の王都支店は木造土壁造りの粘板岩スレート葺きの地上2階地下2階建て。

土壁は石膏ボードで覆っているので、見た目にはダンジョン前に建てた店舗兼ギルド支部によく似た造りになっている。


2階は娘と輝さんの居住スペース。

風呂トイレ付きで個室は4畳のものが4部屋。リビングダイニングキッチンは10畳のものがひとつ。いわゆる4LDK。

ダイニングキッチンは店員も休憩で利用できるようにしている。


トイレは水洗(構造を可能とする岩石創成で作った水管の存在を商業ギルドに知られて現在交渉中)。

保温用の魔導ボイラー(火属性の魔石を熱源とした循環式)のついた風呂。

水属性を付与した魔石をセットすれば空気中から水を集める蛇口付きのタンクのついたキッチン。

とてもとても小さいが、これも魔石を消費することで魔素の循環に貢献するための工夫だ。


水を運ぶ水管は風呂とキッチンの下にも通して地下2階下のタンクに流すように配管。

地下タンクに流れた汚水はお掃除スライムと濾過装置で下水処理したあと一部は揚水ポンプで屋根上の雨水タンクに上げてトイレ用水として循環させている。


1階は窯業セラミックスの鎧を筆頭に壺や皿といった陶磁器類の展示スペースとカウンターとトイレ。

地下1階は方解石の魔法灯や貴石を使った装飾品の展示スペースとカウンター。

地下2階は倉庫だが、地上2階からしか行けないようにして一角には王都に設置したスライム箱の地底と俺のダンジョンに繋がる通路がある。



「生活必需品は経費とし上限金貨5枚までは認める。私物の購入は小遣いの範囲で節度を守るように。2時間後ここに集合」


俺の宣言と同時に、娘ヤエと輝さんとなぜか根古ニャーが大きく頷いて広場に散っていく。


今日は王都で、半年に一度、夏の前の翠月みどりつき(5月)の最終日と冬の前の凋月ちょうげつ(11月)の最初の日に開催される蚤の市の日だ。

蚤の市では商業ギルドに所属していない人間でも売買に参加できるので近隣の農村やら辺境の集落に人間。隣国からも商人がやってくる。

こういう市があると教えてくれた根古ニャーに、それは蚤の市じゃないというツッコミを入れたが、昔からの慣習だと切り返された。


蚤の市の目的は、前の季節の在庫処分とこれからの季節の準備。

今回は夏の市なので、夏秋のものを売り、冬春のものを仕入れるのが基本だ。

また、厳冬期に家の中で作った小物や家具の新作。または入れ替わりに放出となった中古品が出てくる。

俺たちの狙いメインは居住区で使用する中古家具だ。


「ふむ」


家具は設置するスペースが必要なので見つけるのは簡単だ。

置かれている家具を片っ端から鑑定スキルで鑑定していく。


俺が見繕うのは魔導コンロと食器を収納するのに便利な棚。

鍋や木製のボウル。

ダイニングに置くテーブルや椅子。

マッサチン公国の西にある辺境で作られたという絨毯があったのでダイニング用に購入。


「ん?」


不意に視覚の隅に引っかかる何かを感じる。

これは、コミケ会場の島中サークルで上質の薄い本を発掘するときに感じるニュータイプな感じ。

感に従ってその場所に向かう。


その場所にあったのはまず古びた本棚。値段は銀貨5枚。

本が1冊だけ入っている。ペラペラとページを捲りながら鑑定をかけると、どうやら「橘花躍る!!」という題名の小説らしい。本棚のオマケらしい。


次に質素だが頑丈な執務机とひじ掛け椅子。机が金貨1枚で椅子が大銀貨7枚。セットで金貨1枚と大銀貨5枚。

机には一番上に鍵がかかる3段の引き出しが付いている。


机の上には骨董っぽいインク壺に羽ペンとインク吸い取り器ブロッター にペーパーナイフ。これはセットのみで銀貨5枚。

それと宝箱を模した文箱。銅貨5枚。


「イイ感じの机だね」


店番らしい青年に声を掛ける。


「ソラヤ商会の先々代、俺の曾祖父だった会頭が使ってた年代ものさ」


「形見じゃないのか?」


「今度、店を大きくするから備品を買い替えることにしたのさ」


青年は晴れやかな顔をして笑う。

年代物だが、重いし古臭いで今回の店の改築に合わせて売ることにしたらしい。

また余りに古臭くて道具屋も買い取ってくれないのだとか。


「ふーん」


とりあえず宝箱を手に取って鑑定をかけてみる。

・・・

『指輪の入った文箱』


へ?

意外な鑑定に、改めて色々な角度で箱を見回してみる。

これは寄木細工か・・・


「店主。これを買おう」


財布から銅貨5枚を取り出し店主に渡す。


「それと、な。この箱だが、寄木細工の秘密箱っぽいぞ」


「秘密箱ですか?」


青年は首を傾げるだけなので、箱の底にあるパーツのひとつを爪で弾いて外す。

3つほどパーツを動かすと、底が大きく動いたので文箱の蓋を開ける。


「ワ国の民芸品だよ。このように二重底になってるって、これは指輪か?」


ワザとらしく二重底から出てきた指輪を手に取る。

蜥蜴のような爪に赤い宝石が嵌っているが、爬虫類のような眼のような金色の模様が走っていてかなり禍々しい。


「呪いのアイテムっぽいが・・・俺なら金貨5枚を付けるな」


俺の言葉に青年の顔は一瞬歪んだが、ブルブルと頭を振る。


「既に商談は成立していますから」


青年は苦笑いでそう言葉を紡ぐ。いい奴だな。


「では、ここにある売り物全部を金貨5枚でまとめて買い占めよう」


「ぜ、全部ですか?」


青年の目が点になる。

まぁ在庫が全部捌けて金貨2枚余分に稼げたのだからウインウインだろう。


「モノは配達をしてくれるのかい?それとも」


「ああ、持ってきたときにつかった魔法の絨毯を貸すよ。毎度あり」


青年は机の下に敷いてある絨毯を指さす。

おお、これ魔法道具だったのか。


金貨5枚を払い、魔法の絨毯のレンタル契約を交わすと、店の冷やかしを再開させる。

いい買い物をした。

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