第12話商業ギルドに登録しました


冒険者ギルドは、案内板を見るまでもなく城門をくぐったすぐのところに、商業ギルドは冒険者ギルドの正面にあった。そうだな。まずは商業ギルドか。「袋の口から貨幣が零れている」という意匠の看板がかかる煉瓦の建物の扉を開けて入る。


「王都商業ギルド本店にようこそ」


出迎えたのは下あごから野太い犬歯がのぞく、タキシードに身を包んだ筋骨隆々の赤い肌の鬼人オーガさん。しかしこのタキシード。鬼人オーガさんの筋骨隆々な身体にキッチリぴったりフィットするという仕立てをしている。凄いな服の職人さん。


「商業ギルドに登録に来ました」


「承りました。1番から2番窓口で承っております」


鬼人オーガさんは軽く会釈して、1番2番の番号か天井からかかっているカウンターの一角に案内してくれる。


「あの誠に不躾な話で申し訳ないのですが、そのお召し物を仕立てた職人さんを紹介しては頂けないでしょうか」


別れ際、鬼人オーガさんに尋ねる。俺は、祖父が下町で服飾店ディ―ラーを営んでいた関係で仕立てのいい服にはうるさい。

また、祖父の指導で裁縫を習った関係で、嫁さんのコスプレ衣装を何着か手がけた事がある。それが防具作製に生きることになるとは判らないものだ。


「ええ、構いませんよ」


鬼人オーガが野太い笑みを浮かべて了承するのを見て、俺は窓口に向かう。

窓口には襟付シャツに黒のベストを着こなした、人の頭にネコミミの付いた猫人ワーキャットのお嬢さんが座っていた。


「商業ギルドに登録に来ました」


話しかけると猫人ワーキャットのお嬢さんは少し俺を値踏みすると羊皮紙を取り出す。


おお、契約書の文字が読める読めるぞ。内容は簡単に言うと・・・


・商業ギルドに登録する者は以下の額の登録料を納める。

一年金貨一枚。三年金貨二枚と大銀貨五枚。五年金貨四枚。


・一年に一度登録した年の年末までに納税申告をする。

国に納める税金は申告した利益の百分の一。

納税申告の虚偽申告が発覚した場合は追徴金とギルド資格の永久はく奪処分。


・ギルド員は色なしをスタートに黒(F)、白(E)、黄色(D)、赤(C)、青(B)、紫(A)、錦(S)の8階位に分けられる。

クラスによって入札に参加できる取り引きが決められている。

クラスは冒険者ギルドと同じものを採用している。


・ギルド銀行が無料で利用できギルドカードでキャッシュレス決済が行えるようになる。


・ギルドに所属する店での割引が得られる。


・クラスによって納税額は上下する。

などなど


「問題なければサインと身分証か冒険者ギルドカードを提出してください」


猫人ワーキャットのお嬢さんに促されるように羊皮紙にサインすると城門で貰った身分証を差し出す。


「では、ユウ・アクイ・メディチさん。こちらの水晶に手をかざしてください」


水晶は、鏡部分が平に形成された水晶という違いはあるが、城門詰め所にあった浄玻璃鏡じょうはりきょうによく似ていた。

たぶん形を似せることで浄玻璃鏡じょうはりきょうと情報を共有していると主張しているのだろう。


猫人ワーキャットのお嬢さんが水晶の台座にあるスリットに身分証を差し込むのを見て俺は水晶に手をかざす。

あ、猫人ワーキャットのお嬢さんの目が光った。


「それではメディチさま。登録は五年にいたしますか?」


「あ、はい五年でお願いします」


このやり取りに両隣りい座っていたスタッフの目が光る。

間違いなく獲物を狙う肉食動物の目だ。

しかし、『さん』が一瞬で『さま』になって、契約の最長を勧めてくるとは恐るべし。


「メディチさまは製造クラフトスキルをお持ちのようですね。宜しければ私、根古ニャーがメディチさまの担当につきまして色々とサポートいたしますが」


そういって猫人ワーキャットのお嬢さんはカードの半分が透明になった商業ギルドカードと一緒に黄色いカードを差し出す。

カードには商業ギルド職員:根古ニャーという文字が書かれている。

これってもしかして名刺か?


「失礼しました。製造クラフトスキルというのメディチさまのお持ちになっている防具製作Lv.5のことです」


なにやらフォローを入れてくる根古ニャーさん。


「えっと、これから冒険者ギルドにも用がありまして、そのことは改めてお願いするかもしれません。はい」


慌ててギルドカードを受け取ると席を立つ。


「ありがとうございました。またどうぞ」


という声をバックに足早にギルドを出ようとする。


「メディチさまこれを」


入り口で対応してくれた鬼人オーガが青いカードを渡してくる。カードには商業ギルド職員:樹多 郎。

裏には布留・ジルコニウムと書かれていた。多分これは仕立て屋さんの名前と店の名前ね。


「ありがとうございます」


大きく頭を下げると商業ギルドを飛び出し冒険者ギルドに駆け込んだ。

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