3つの小品
@wakuwaku
第1話 緩和
私は自宅の書斎で、書物の整理をしていた。
自分でも驚くほどの本や雑誌の山。いつか整理しようと思っていたが、中々行動に移せなかった。珍しく暇だったので、暇つぶしもかねてだが整理をはじめたのだ。
膨大な量の書物だが、一冊一冊表紙を見ていくだけで、内容が蘇ってくる。
よくもまあ この量を買ったものだ と心のなかで思う。
ある程度、いらない書物をまとめ、紐で縛って物置へ運ぶ。
そういえば、朝から足が震える。今年の冬は特に寒い。
ああ、暖房の修理もしなければ、いろいろと考える。
まとめた書物を運ぼうとした時、2階から声がした。
かすかに声がする。なんだろう。トイレにいくついでに見てこよう。
階段を登っていく。なぜだか分からないけど、とてつもない緊張と不安を感じた。
やはり声は聞こえる。さっきよりも大きく、そして低く、力強い声が。
しかし、私には何を行っているのか分からなっかた。不思議だ。
私はトイレに入った。得体のしれぬ不安と緊張が全身をはしる。
突然 声が止んだ。ここに何かがあるのかもしれない。
ガッタン、音がする。
一瞬のことだ。トイレの床がへなちょこな紙のように、グニャリと曲がった。私の体重を支えきれなくなった床、床自体がやぶれていくような感覚。
私は落ちる。下に落ちる。その時、かすかに縄の、太く硬い、あの縄の感覚が首にあった。そうだ、そうだった、私の刑は今、まさに執行されている。顔をおおう、黒い布の質感、蘇る、あの場所の匂い、蘇る、両手の自由を奪う手錠の冷たさ、蘇って欲しくない記憶、しかし蘇る。
時間がゆっくりに感じる、しかし、あと少しでそれも終わる。
政府が新しく導入した、死刑囚の精神的負担を緩和させる小型装置。死刑囚は記憶を一時的になくし、仮想現実の世界を見ることになる。しかし本人にとってはそれが現実である。この装置によって刑の執行を、スムーズに行うことができるという。そして今朝導入後初めての刑が執行された。
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