第二部 Vampire & Throngs
第二部プロローグ ―追いかける者たち―
ヤーヒム達がブルザーク大迷宮の最深層で激しい戦いを繰り広げていた頃。
そこからふたつ浅い階層、未だそこを攻略した者がいないと信じられている<常昼の無限砂漠>の一角では。
見渡す限り誰もいない熱気揺らめく砂丘の中腹に、一羽の鷹を囲み難しい顔で密談する男達がいた。
ディガーと呼ばれる迷宮採掘者風の、けれど明らかに目付きが鋭すぎる男が六人。そして、そのうちの一人の男の腕に従順にとまっている鷹が一羽。
鷹の目は塗り潰したような漆黒で、その中央に禍々しい紅い瞳が妖しく揺らめいている。
「……おい、その使い魔、壊れたりはしてないんだろうな?」
「ああ、それは大丈夫だ。これはマーゴに預けた私の使い魔のひとつで、さっき引き出した情報は掛け値なしの真実だ」
鷹を腕にとまらせた男が、感情の読み取れない冷淡な眼差しで仲間の顔を見回していく。
「となると、こういうことか――ゼフトの<火炙り>率いる下衆共はサンドワームの暴走に呑まれて壊滅、苦労して潜り込ませた我らがマーゴもそこで死亡。そして、保険につけた使い魔は役に立たず、肝心のヴァンパイアは手掛かりもなしに消え失せた、と」
「…………まあ、そうなるな」
「チッ、だからこっちで奴を直接捕らえた方が早いと言ったんだ」
彼らは表向きには存在しないと言われている、王家直属の近衛第四騎士団に所属する者達だ。
腕の立つ曲者ばかりが在籍し、力を持ちすぎた貴族を主な相手として暗躍する通称「王家の
「ああ、まさかヴァンパイア一人に魔法使いを揃えた<火炙り>達が殺られるとは確かに予想外だった。だが、我々は派手に人数を使うことはできない、それは初めから分かっていたことだ。この広いラビリンスでの狩りはナクラーダルにやらせて、我々はそれを最後に戴く――当初のその方針にお前も納得していた筈だが? マーゴの死は痛いが、得られた情報は充分に価値あるものだろうが」
「逃げられたという結果に価値も糞もあるもんかよ。あのブラディポーションの製法だぞ? 王家はとっくに目の色を変えているし、失敗は許されないんだ。この先、万が一どこぞの田舎貴族にでも持っていかれた日には――」
「くどい。話が一向に進んでおらん」
それまで沈黙を保っていた、輪の中心にいるリーダー格の男が鋭い眼光を周囲に走らせた。
「こうなった以上、我々でヴァンパイアの身柄を押さえるしかあるまい。ラビリンス内で捕まえられなくとも、外にはスレイブを待機させてある。あいつを動かしたくはないが、よそに渡すぐらいなら最悪それも許容する――質問は?」
誰も口を開かず、リーダ格の男が満足げにニヤリと口の端を釣り上げた。
「……お誂え向きにこの階層は行き止まりだ。前の階層に戻っていないということは、ヴァンパイアは確実にこの砂漠のどこかにいるということだ。ズヴェール、その使い魔で空から奴を探せ。壊れていないことを証明してみせろ」
男のその言葉を理解したかのように、紅い目をした魔性の鷹が一直線に空に舞い上がっていく。
「他は転移スフィア周辺で奴を待ち伏せする。この日差しはヴァンパイアの天敵だ。いずれ必ずこの階層から撤退してくるはず。袋の鼠とはまさにこのことよ。そう――ヴァンパイアは我らが戴く」
男達は視線で頷き合い、そして一斉に動き出した。
―次話『包囲網(前)』―
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