この世界も百周以上したので、いつも勝手についてくるメインヒロインが百人を越えてる

@syakariki

第1話 世界をやり直しすぎてもう飽きた

「ぐっ、やられた……!」


 捻りもなんもない最後の台詞を吐いて、魔王が地に伏した。


 もう少し格好いい台詞を吐けよとタケルは思ったが、魔王はもう百回以上殺されてるし、死ぬときの台詞を考えるのが面倒くさくなっているのだ。


 最初こそ「貴様が理想とする平和は、我のこの血が汚すだろう……」って言いながら笑って死ぬという、平和とは何かを問うような演出をしていたが。

 百回もそれを繰り返してたら流石に飽きるし、なんか恥ずかしくなってくるし、「ぐっ、やられた……!」と言ってくれるだけマシではあった。


 一番酷いときは、遺言が「あ、その聖剣痛いからやめて。この前の龍槍ベルゼでおねが……ぐはぁっ!」なんていう締まりのないものであったし。


「ごめんな魔王、お前の犠牲は無駄にはしないとく」


 魔王を一突きで倒したタケルは、すごく軽い感じで謝罪の言葉を口にした。


 《約束の日》までに魔王を殺さないと、世界に災厄がもたらされる。それは魔王が「災厄もたらしたくないなぁ」と思ってる現状でも変わらない不変のルールであり、それを防ぐためには今のように魔王を殺さなければならないのだ。


 魔王にとっては完全に良い迷惑だし、どうせこいつが生き返ると知っていても、謝りはする。それはタケルのポリシーの一つだった。


「よくやりました、勇者タケル。あなたは世界を救ったのです」


 魔王と勇者しかいなかった広大な部屋に、ふと、透き通るような声が降り注いだ。

 それは勇者の声でもなければ、今さっき絶命した魔王の声でもない。タケルはため息混じりに、声の主に呼び掛けた。


「女神様……」

「あい、女神様です。今回はまた、一段とクリアが早かったですね。何回も呼び出されるの面倒くさいので、もう少しゆっくり魔王倒して欲しいです」


 女神は姿を見せないまま、そんな自分勝手な意見をおっしゃった。


「あなたの意見なんて知りませんよ。俺だって魔王をこんな短い間隔で殺したくないですけど、またレイナのせいで世界が大混乱に陥っちゃったんですよ! リセットしないと期限内に魔王を倒すことさえままならなくなりそうだったんで、仕方なくです」

「他人を犠牲に、自分だけリセットリセット……。失敗したらすぐやり直そうなんて考え方では、いつか痛い目見ますよ?」

「誰のせいだ、誰の!」


 サウンドオンリーな女神に、タケルは苛つきながら叫んだ。

 しかし、彼の怒りなどどこ吹く風で、女神は話を進めた。


「まぁいいや。私としては、災厄さえ起こさないければいいんですわ。これから《輪廻の儀エンドロール》を行いますんで、次も頼みますねー」

「クソッ!」


 マイペースな女神の台詞に、タケルは勢いよく毒づいた。

 

 《輪廻の儀》。それは魔王を倒す度に問答無用で発動される、女神の権能だった。

 これが行われる度に、タケルは勇者としての冒険が始まった日にまで巻き戻されてしまう。

 何故そんなことをするのか、タケルには分からない。女神に尋ねても「仕事ですから」の一言を返されるだけなのだ。


 基本的に、世界をやり直した際に前の世界の記憶を引き継げるのは、タケルと魔王と女神様だけだ。

 だからタケルはやり直しをする度に、他の人との記憶のギャップに悩まされる。もう百回以上やり直しをしてきたので流石に慣れてきたが、「なんでそんなこと知ってるの?」とか聞かれたときの面倒くささは異常だ。

 また魔王に関しては、百回以上殺された記憶があるため、先ほどのように死に方もなあなあになってしまうのだ。


「では、毎度おなじみ周回特典選択のお時間でーす!」


 タケルの気苦労も知らずに、というか知っておきながら無視して、女神が言った。

 周回特典・・・・・・これも、女神様の権能だ。


 タケルはやり直しをする度に、一つだけ冒険で手に入れたアイテムなどを次の冒険にもっていけるのである。

 一度引き継いだものは何度世界をやり直しても持ち越せるので、今や手持ちの周回特典は、世界をやり直した数と同じく百を超えていた。


「じゃ、今回は《聖弓キノシタ》を引き継がせてくれ」


 女神の言うとおりいつものことなので、タケルは引き継ぐアイテムを既に決めている。

 今回選んだ《聖弓キノシタ》は、異世界から迷い込んだと自称する狂人キノシタの素材から出来た一級品の武器である。


 タケルがなるべく殺さないように倒そうとしてもすぐに死んでしまう貧弱な敵だったので、今回は自分の素材で出来た弓を見せて戦意喪失させよう、という目的のための選択である。たとえ狂人でも、タケルはなるべく人を殺したくなかった。

 なお、《キノシタ》の皮・・・・・・じゃない、素材を使って弓を作ったのは、タケルではない。仲間の鍛冶屋が勝手にやってしまったのだ。


「おーけー。では、本格的に《輪廻の儀》が始まりますよー」


 いつもと同じ作業をめんどくさがりながら、女神が気怠げに言う。

 また、この時が来てしまった・・・・・・。タケルは頭を抱えながら、ため息をついた。


「タケル、やっとこの戦いも終わりなのね」


 魔王の部屋に、また新たな声が響いた。

 今度は声だけではない。さっきまではいなかった人影が、この部屋に増えていた。

 そう、世界がリセットされる前に、タケルにはまだ、一仕事有るのだ。

 魔王を殺すことなんかよりもよっぽどめんどくさい、一仕事が―――。

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