異世界がシビアすぎて泣いてる

@syakariki

第一章 先陣しか切らない時代

プロローグ 宿屋の二軍

 宿屋のラウンジに、何故か無数の叫び声が響いている。


 声のする方を向けば、鉄格子に手を叩きつけて何かを訴える冒険者達が見えた。


「俺はこんなところで終わって良い戦士じゃないんだ! 出してくれ! 俺をここから出してくれぇ!」

「爆裂魔法が得意です! ほんと強いですよ爆裂魔法! だから仲間にして下さいぃぃぃ!」


 叫び声の内容から察するに、パーティーから戦力外通告を受けて、宿屋に「預けられた」冒険者達のようだ。

 何故か宿屋に仲間を預けられるRPGゲームがあるけど、実際に目の当たりにすると酷いシステムだよね。


「この宿屋、今日はめっちゃうるさいニャ」

「そうだな」


 俺と一緒に戦ってくれている猫耳少女のリナが、朝食を摂りながら愚痴をこぼす。それから宿屋の主人を呼びつけて言った。


「マスター、ちょっとBGM消してくれるかニャ?」

「かしこまりました」


 宿屋の主人はお辞儀をするなり鉄格子の方へと歩み寄り、先程叫んでいた冒険者達を怒鳴りつけた。


 宿屋に無償で人を預けられるのには、理由がある。それは、彼らが宿屋のBGMとして機能しているからだ。

 二軍冒険者の嘆きは、心の荒んだ他の冒険者達を和ませるのである。


「うーん、やっぱり何も声が聞こえないと、それはそれで寂しいニャ。マスター、やっぱりBGMもっかいつけてニャ! 音量最大で!」

「かしこまりました。おいお前ら! もっと大きい声で嘆け!」

「誰かぁぁぁぁ! ここから出してくれぇぇぇぇぇ!」


 リナは目をつむり、再び鳴り響く叫び声に耳をすませる。


 それに応えるように、彼らは自分を引き取ってくれるパーティーが現れる時を夢見て、より声を張り上げるのだった。


「えっげつねぇなぁ」


 彼らを見ながら、「俺も仲間から見放されないように頑張ろう」、と決意するのが最近の日課だ。俺は視線を彼らに向けたまま、軽く朝のコーヒーを啜った。


 これはそんな、シビアな異世界の物語。

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