第1話 女神様の好感度も大切

 なぁ、脱水症状って知ってるか?

 体中の水分がなくなって、死ぬんだぜ! こえぇよな!


 だから部屋にずっとこもってる奴とか、夏場は水分補給しなきゃいけないんだぜ!?






 ――――というわけで。






 ひきこもりだった俺は、水分補給を怠って脱水症状で死んだ。











 俺の目の前には女神様がいた。

 すっげぇ冷ややかな目で、俺を見ていた。


「あなたは部屋で二年もゴロゴロした挙句、脱水症状で死んでしまいました」

「そうみたいですね!」


 ニコニコしながら返事をしたら、女神様の目がより冷たさを増す。


「今も言いましたが、あなたは命を落としてしまいました」

「はい、今聞きました! なので異世界へのゲート出してください!」


 俺が頼んでいるというのに、女神様は何を答えるでもなく険しい顔になるばかり。


 何か、辛いことでもあったのかな。でもね分かって、異世界に行けそうで行けない俺の方が辛いということ。


「もう少し、マシな反応ないんですか……?」

「ありません! 死んだらさっさと異世界に送ってもらおうって、決めてたんで!」


 女神様の質問を受けて、明るく元気よく宣言する。

 異世界に行くことだけが生前の望みだった俺には、この状況で死を嘆いて同情を誘うとか無理だった。


 ただただ元気。

 体中から元気が溢れてくる。


「テンプレ通りにいけば女神様の登場シーンなんてこれっきりですし、さっさと異世界に飛ばして下さいよ。女神様の好感度上げても仕方ないですしね」

「失礼すぎる! というか何なの、その死んだら異世界に行くこと前提な精神構造! 怖いんだけど!」


 恐怖からか、女神様がとうとう丁寧語をやめて叫んだ。


 まぁ死んだ後の女神様との面会までこぎつけたのだ。

 俺みたいな異世界大好き人間が、異世界行き前提で会話してしまうのは仕方ないだろう。


「現世に転生もできるんだけど、それでも不慣れな異世界に行きたいわけ?」

「はい、現世に転生させたりしたら、一生あなたを恨みます!」


 そもそも引きこもって異世界ものばっか読んでた俺にとっちゃ、異世界よりも現世の方がよっぽど不慣れだしな!


 何を言われても元気よく返事する俺に疲れたのか、女神様が目を虚ろにさせながら言った。


「わ、分かったわ……。あなたが言ってるのは、どうせ中世ファンタジー風の世界でしょ? そういうのも一応あるし、送ってあげる」

「ありがとうございます! あと、チート特典もお願いしますね!」


 女神様なんだから異世界に送って当然だろうと思いながら、俺は心にもない感謝を述べた。


 そして、チート特典の要求も忘れない。異世界に送るのを渋ってるところを見るに、この女神様、ちょっと初心者っぽいしね。


「分かったわ。じゃあ、したくせに記憶と年齢がそのままっていうチートで」

「は?」


 そんなのお約束だろ。チート特典でもなんでもないだろ?


「まぁあと、恩情で言語も通じるようにしたげるわ。転生先は母体で大丈夫?」

「このサイズで母体に転生したら、母ちゃんの腹を突き破っちゃうじゃないですか!」


 そんなホラーな異世界転生は嫌だ!


「なら違う場所に転生させてあげる。じゃあね、良い転生をー」

「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇ!」


 俺を早く追い出したいのか、女神様が問答無用で異世界へのゲートだとおぼしきものを開いた。どんどんそれに吸い込まれていく。

 良い転生をって、その適当な送り出し方なんだよ!


「礼儀がなっとらんぞー!!!」


 なっとらんぞー。なっとらんぞー。なっとらんぞー……。

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