第22話 やはりミミック
ロップの兄を通り過ぎると、俺達は広い空洞に出てきた。
これまでの道のりは洞窟然としていたが、ここは誰かがいじったかのように壁が整っている。
そして、何故か両方の壁に沿うようにして宝箱が二十個ほど並べられていた。
「え、なにこの露骨なボーナスステージ!」
これまでが無駄にシビアだった分、このゲームみたいな不自然さに違和感を覚えてしまう。
ちょっと前だったら「これこそ異世界の醍醐味だ!」とか言いながら喜び勇んでいただろうに……。
異世界に来てまだ一ヶ月くらいしか経ってないのに、俺もすり切れちまったもんだぜ。
「お、流石のコウタも不用意には開けないのニャ。お察しの通り、不用意に開ければその場で死ぬニャ」
「ごめんそこまでは察してなかった!」
当然のように言いやがって……。そう簡単に死んでたまるかよ。
「どうせあれだろ? この中のいくつかがミミックなんだろ?」
「へぇ、ミミックは知ってるのニャ。コウタの知識は偏ってるニャア……」
「じゃあまぁ、一つずつ慎重に開けるしかないか……」
「ちょっとくらい慎重に頑張っても、ミミックを引いた途端に死ぬニャよ? それでもやるのニャ?」
何故か期待するような目で見てくる。
いやそんな目で見られてもやらないよ!? こんなところで命を賭けたギャンブルしたくない。
「じゃあ、惜しいけど宝箱はスルーだな」
「そんなことしたら後ろからミミックに襲われるぜ?」
「宝箱を開けなくてもミミック出てくるの!? 一体どうしろと!!」
次善策を提案したら、今度はレイに窘められた。
初見殺しにも程がある。宝箱、これまでで一番強い敵なんじゃないか……?
相変わらずバランスの設定がおかしい世界だ。宝箱の攻略法に頭を悩ませたくはなかった。
「マジでどうすれば良いんだ?」
「こういうことになるから、ダンジョンには準備が必要だって言ったのニャ。宝箱なんてダンジョンのトラップの中では対処のしやすい方だしニャ」
「これで簡単な方なの……? ん、というかダンジョンへの準備?」
なんでここで準備の話になるんだ、と思ったところで、俺はやっとリナの言わんとすることが分かった。
「ダンジョンスターターセットに入ってたアイテムは、ここで役に立つのか!」
「その通りニャ。ちなみにここでは、火炎放射器を使うニャ」
言いながら、俺以外のみんながスターターセットの袋から筒状のアイテムを取り出した。
その小さいやつ火炎放射器だったの!? 松明と一緒に入れてるの危なっ!
みんなが手慣れた手つきで火炎放射器を宝箱に構える様は普通に不気味で、少なくとも異世界感は皆無だった。
魔力で動くらしいので魔力を流し込む様は申し訳程度にファンタジーチックだったが、女の子三人が大部屋に放火している時点でファンタジーもクソもない。
「グギャアアアアアアア!」
リナ達が放火した直後、部屋にあった宝箱の九割ほどが叫び声を上げてのたうち回った。ミミックの比率、半端ねぇ。
暴れる宝箱のいくつかは開き、中から何かが出てくる。
ケンタウロスのように上半身が完全な人型で、それが燃やされている様は哀愁と死臭が漂う。
「こんなところでいいでやすかね? この火炎放射器、魔力消費が激しいので使いすぎない方がいいでやすよ」
ロップがそう言うと、彼女達は何事もなかったように火炎放射器を下ろし、スターターセットの袋にしまった。
大部屋に残ったのは、燃やされたミミック達と燃えて使い物にならなくなった宝箱のみ。
どうやら宝箱を開けられるのは、四方からミミックに襲われても勝てる自信のある者だけらしい。
「だったら宝箱って一体なんなんだ……」
「それは勿論、兵士自らミミックに近づいてくれるように魔王が用意した、いわゆる当たり要素ニャ。一度でも当たる快感を知ってしまえば、たとえ危険と分かっていても開けずにはいられない。それが人間なのニャ……」
リナが哀愁漂う顔で宝箱を見つめた。
えー、それ要するに、パチンコとかソシャゲ課金とかと同じってこと……? 宝箱の神聖みが薄れるな……。
しかも、宝箱があるからミミックが出来たんじゃなくて、ミミックを活かすために宝箱が出来たという衝撃。
「宝箱中毒者の末路は、ミミックに襲われて自らもミミックになることなのニャ……。宝箱の中に、人生に大事なことは詰まってニャい。みんなも気をつけようニャ」
なんか壮大に話をまとめやがった。なんだよその教育番組みたいな終わり方は!
このミミック達の何割かは元人間だったかもしれないわけだな。
俺も性格的にその宝箱中毒者になりそうだから、そうなっても良いように強くなろうと思った。有り難う、宝箱。
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