第19話 箸休めが長すぎる、長すぎると話題に

 翌朝、俺とリナは宿屋の玄関でばったり会ったので、一緒にギルドへ向かうことにした。


 今日は魔法学校の時間割が全体的に役に立ちそうだったため、割の良いクエストが増えていなければ一日中授業を受ける予定である。

 もちろん割の良いクエストはすぐに定員が埋まってしまうのでこうして朝早くに起きて確認しようとしたわけだが、リナも同じ考えだったようだ。


 俺はこんな朝からリナに会うとは思っていなかったため、いまいち心の準備が出来ていなかった。


 ヒロインに会うために心の準備が必要だなんて最近のラノベ主人公失格だが、元々俺は女の子と会ったから一緒にどこかへ向かうなんてイベント自体、無縁な男なのだ。

 通学路でクラスメートの女子と会ったら、女子はやけに早足で学校へ向かうものだったし。


 まして昨日みたいに色々言われた後では、平常心など望むべくもなかった。

 俺達は玄関で会ってからやはり無言で、貼り紙の貼ってあるギルドの壁まで来てしまう。


「やっぱり、この時間じゃ昨日からそんなにクエスト増えてないニャ。増えてるのも上級者向けばっか。これは、学校行った方が良いニャ」


 俺の隣でクエストの壁を一通り眺めてから、リナがそんなことを言った。

 その声が特に暗いとか感情がこもってないとかいうことはなく、いつも通りの声だ。昨日のことはこれ以上掘り下げるな、という意思表示だろう。


「ああ、そうだな・・・・・・。今日の一時限目は何があるんだっけ?」


 魔法大好きな俺はちゃんと把握していたが、言葉を絶やすまいとそんなことを聞いた。


「「属性魔法入門」と「魔力節約演習」と「人体改造論」、あとは「回復魔法体系」ニャ。この中だと君は「属性魔法入門」がお勧めニャから・・・・・・まぁ、付き合ってやるニャ」


 スラスラ答えると、リナは流し目で俺を見た。


 風属性魔法を使いこなせているリナには「属性魔法入門」なんて殆ど意味がないはずだが、リナは一緒に受けてくれるそうだ。

 仲間のサポートなしに属性魔法をすぐ使えるようになれる気がしないし、それはすごく助かる。


「有り難う、属性魔法は男のロマンだからな。是非とも教えてくれ!」


 リナの有りがたい提案に、俺は心の中のもやもやも少し忘れることが出来た。

 もしかすると、これも現実逃避なのかもしれないが。






 ギルドを出て「属性魔法入門」の授業がある教室に行くと、見知った顔が二つあった。

 一人は黒いスカーフを頭までかぶった小柄な女の子で、もう一人は堂々とした長身の女の子。


 ロップと司教だ。並べて見るとものすごく対照的な二人である。


「お、おはようございやす。コウタの旦那、リナのお嬢・・・・・・」

「あ? お前らも来たのかよ。こいつだけでも鬱陶しかったのに、お前らなめてんのか?」


 そして口調も対照的だった。別になめてはいない。


 司教は昨日の白いローブを着ておらず、布が胸と下半身を覆っているだけのような薄手の格好だった。やべぇ、司教のくせにリナよりも露出度たけぇ!


「ロップや司教さんもこの授業受けに来たの? 属性魔法って意外とみんな覚えてないもんなんだね」


 ロップはともかく司教がこの場にいるのは意外だったので、俺は見れば分かることを聞いた。属性魔法だけとはいえ自分と同じレベルの人がいるのは嬉しい。質問の声も思わず明るくなった。

 俺の質問に、ロップが過剰なほどに頷く。


「へぇ、その通りでやす。あっしは魔法がとことん苦手でやして、属性魔法なんてとてもとても・・・・・・。ただ昨日みたいなこともありやすし、少しでも力を付けねばとこうして授業を受けたわけでさぁ」


 昨日みたいなことというと、俺にアイテムを巻き上げられたことか。表情にはださないけれど、根に持っているらしい。


 相変わらずの変な口調なのでいまいち内容が頭に入ってこなかったが、ともかくロップは俺と同じく魔法初心者だということのようだ。頼りになるリナとは別の意味で心強い。

 「やすし」以外の台詞が印象に残らないのだけはなんとかして欲しかったが。


 ロップが質問に答え終えると、それを見計らったように司教が口を開く。


「言っとくけど私は属性魔法が苦手なんてことはないぜ? ただ、普段は使ってない属性魔法も鍛えてみるかと思っただけだ。なんかこれから色々起きそうな予感がするしな。それと・・・・・・」


 司教が俺の方に手を差し出してきた。


「私の名前は司教さんじゃねぇ。レイだ。よろしくな」

「え? う、うんよろしく・・・・・・」


 俺が手を差し出すと、あちらから強引に掴んできた。

 態度は荒いけど、なんだかんだ付き合いは良さそうだった。あちらから自己紹介と握手をしてくるとは。


 意表を突かれたが気を取り直して、属性魔法について詳しく聞くことにした。


「普段は使ってない属性魔法って具体的には何だ? というかそもそも、属性って何種類あるの?」

「属性は今確認されてるだけでも十種類以上あるんニャけど、まだまだ未確認の属性はあると言われているニャ!!」


 俺の台詞を食い気味に、リナが早口でまくし立てた。

 振り返るとリナが息を切らしながら、「してやったり」みたいな達成感に満ちた顔をしていた。一体どうしたのだろうと考えて、すぐに理由に思い至る。


 リナはさっきまでの会話に混ざれなかったことに危機感を抱き、会話に混ざれるタイミングを待っていたのだ。そしてようやっと自分の答えられそうな質問が飛んできたから、誰かに答えられる前に答えたのだろう。


 それが分かってしまう俺も大概のぼっちだが、リナは異世界ものヒロインにあるまじきぼっちだった。


「せ、説明有り難う。その今確認されてる属性って何があるの?」

「主な属性は、攻撃範囲に特化した火属性と、攻撃力に特化した水属性、速度に特化した風属性に、防御力特化の土属性ニャ。ちなみに人の体は適正のある属性しか作り出せないから、属性魔法も自分の適性にあったものだけ覚えるのが基本ニャ」


 リナが自慢げに胸を張って、聞いてないことまで説明してくれた。でもロップとレイの興味なさそうな顔を見る分に、それは自慢げに説明するような情報じゃないんだろうな。俺は助かるけど。


 もう少し詳しく聞いてみたところ、どうやら属性魔法というのは魔力を物質に変換してそれを操るものなのだが、その魔力を変換できる物質は人によって違い、その属性適正は生まれつき決まっているということのようだ。


 例えば生まれつき火を作ることが出来る代わりに水が作れない人もいれば、水を作れる代わりに火を作り出せない人もいるわけだ。

 火を作り出せない人も火を操る能力を習得することは出来るらしいが、その場合は火がないところで戦うと役立たずになるため、自分の作れる属性の魔法のみを覚えるのがセオリーだそうだ。


「で、みんなはどんな属性に適性があるんだ?」

「私は風属性と鋼属性に適性があるニャ。それと、闇属性もちょっと嗜んでるニャッ」

「わ、すごいでやすね! 三属性に適性があるなんてなかなかないことでやすよ! 向かうところ敵なしでやす! 尊敬するでやす! 一生ついていくでやす!」


 リナの返答に、ロップが異様にテンションの高いおだてで応える。こいつ、商人だからか人への取り入り方が露骨すぎだろ。


 しかもリナが表情に出さない程度に嬉しそうにしてるのが、なんか可哀想になってくる。褒められ耐性なさすぎか!


「そういうロップは何の属性魔法が使えるニャ?」


 気を良くしたリナがロップに質問した。友達になれるかもしれない、みたいな純粋な笑顔で質問するもんだから見てられない。

 それに対してロップは案の定、リナを立てることだけに一生懸命な口調で答えた。


「あっしは氷属性と闇属性しか使えないでやすね。しかもどちらもあまり得意でないでやす。リナのお嬢の華麗な魔法には足下にも及びませんで、へぇ」


 自分を落とすことが相手を立てることだと勘違いしている節があるらしく、ロップは意気揚々と自分の短所を述べ立てる。

 これからが本番だとでも言うようにボルテージを上げて言葉を続けようとしたので、困惑してるリナを助けるためにレイに質問を振った。


「ロップの適正は分かったけど、レイの適性は? やっぱ光とか?」


 ラノベでもゲームでも、回復魔法は光属性だというイメージがある。ものによっては光属性魔法という言葉自体が回復魔法を指すこともあるし、この世界ではそこら辺どうなってるのか気になる。


 俺はそれなりに期待してレイの言葉を待っていたが、レイが返した言葉は一語だけの簡潔すぎるものだった。


「肉」

「・・・・・・へ?」


 何を言われたのか分からず、俺は間抜けな声を出してしまう。

 しかしレイは俺の反応を気にすることもなく、そのまま言葉を続けた。


「肉だよ肉。肉属性だって言ってんだ。お前私の魔法で回復したんだから分かるだろ?」

「いや分からねぇよどういうこと!? 肉属性って何!?」

「あー・・・・・・お前はモノホンの魔法初心者なのか、めんどくせぇ・・・・・・。要するに、回復魔法は肉属性の魔法だってことだよ」


 いや全く分からない。

 そもそも肉属性魔法ってのが全く想像つかないし。


「回復魔法って光属性とかじゃないの?」

「光で何が治せるって言うんだよ。ケガをしたら肉が削れるだろ? それを補うのが肉属性魔法であり回復魔法ってわけだ。もちろん肉だけじゃなくて、骨や血も作れるけどな」


 言いながら、レイが俺に右の手のひらを突き出してくる。

 その中央が光りだすと、そこから液体に近い挽肉のようなものが流れ出した。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


 それを見て、思わず叫んでしまう。

 昨日の教会で、俺は傷口にこんなもんを塗りたくられていたのか! 気持ち悪っ! 回復魔法エグっ!


「いや、そんなに嫌がられると流石にちょっと悲しいぞ?」


 普段は男勝りな態度のレイだが、俺の反応は流石に堪えたようだ。ちょっと眉尻を下げて悲しそうにしていた。

 ごめんなさい・・・・・・。


「えーっと、肉属性の他には?」

「闇属性だな」

「その闇属性の人気っぷりは一体何なの!?」


 こいつらみんな闇属性嗜んでるじゃん! どんだけブラックなヒロインズなんだよ!


「火とか水とか・・・・・・もっと色々あるだろ・・・・・・」

「そんなこと言われてもニャ。適正属性は生まれつきのものだし・・・・・・。んじゃまぁ、コウタの適正も確認してあげますかニャ」


 言いつつ、リナが俺の右腕に手を伸ばしてきた。

 魔法が出るのは魔孔か魔方陣からだけなので、リナのフカフカの手袋には、手の平部分に魔孔を塞いでも魔法を発動するための文様が描かれている。

 それが右手に触れた瞬間、俺の体に魔力が流れ込んでくる感覚がした。


 同時に、俺の両手の平と両足の裏、そして両目からから何かが流れ出てきた。


「あー、コウタは目にも魔孔があったのニャア。ごめんニャア・・・・・・」

「目がぁ! 目がぁ!」


 なんか目からすっげえ溢れ出てたんだけど!? こわっ! そして痛っ!


「一体、何が出てきたんだ・・・・・・?」

「土ニャ・・・・・・。土オンリー・・・・・・」


 何かが目から出終わると、俺の視界が回復してきた。

 目の前にこんもりと積まれていたのは土の山。え、これが俺の目から出てきたの・・・・・・?

 うわっ、自覚した瞬間、瞬きするとすっげぇ痛い! 目が! 目がぁぁぁ(本日二回目)!


「こ、これはつまり・・・・・・」

「そうニャ、君は純粋な土属性使いで、他の属性は使えないようニャ・・・・・・」

「土属性って、強い・・・・・・?」

「強いか弱いかなんて一概には言えないニャ。まぁ、強いて言うなら、防御力重視ニャ」


 リナがメチャクチャ言葉を濁しながら言った。

 防御力重視・・・・・・土・・・・・・地味だ・・・・・・。


 俺が白目を剥いていると、リナは言いづらそうに、言葉を重ねた。


「そして、私の鋼属性の方が、防御力高いニャ・・・・・・」


 俺はその場に卒倒した。

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