第17話 教会は忙しい

 クエストを終え、俺達は撤退及び帰還用の集合場所に戻った。

 リナがケンタウロス六体の撃破を報告すると、サブリーダーはかなり驚いていた。


 本来なら一つの部隊がケンタウロス一体を倒す度に戻って報告し、その都度サブリーダーかそこで待機している人が作戦を継続するかどうか決める手筈だったので、そりゃ驚くだろう。


 しかし流石サブリーダーというべきか、報告を聞いた途端にすぐさま帰還の判断を下し、森の周辺で作戦終了を知らせる赤い閃光弾を打ち上げた。

 これを見た者は集合場所まで帰還し、見えなかった者は死者扱いになるらしい。雑だ。

 でも死んだ人をいくら待ってても仕方ないと思えば、仕方ないのかもしれない。


 ともかく、かなりのケガを負っていた俺は他のクエスト参加者が集合するまで集合場所で安静にするだけで良かった。

 クエスト参加者が粗方集まったら、サブリーダーが「じゃあ帰りますか」と軽い調子で言って、街へと向かった・・・・・・。

 37人が参加した内、30人が生還。クエスト、成功。






 街に帰ってきた俺は、ギルドで報酬を受け取るより先にリナに連れられて教会へと向かった。


 上質な回復薬を使ったとは言え、背中を何カ所も射られたのだからすぐには治らない。街まで帰ってこれたのだからすぐ死ぬなんてことはないが、大移動のダメージも加算されて、重傷であることは確かだった。


 この世界では教会が病院の役割も請け負っているらしいので、リナとロップに肩を貸してもらいつつ教会に来たというわけだ。


「すいません! 負傷者の治療をお願いできますか・・・・・・ニャ!」


 教会に入るなり、リナは少しの焦りをにじませて叫ぶ。

 この状況でもギリギリで語尾を忘れないリナの執念は流石だ。


「負傷者だ? そんなんどこにいるよ?」


 そんなリナの叫びに対して、返ってきたのは軽い調子の言葉だった。

 奥にある教卓の裏から、司教がつまらないものを見るような目でリナを睥睨する。


 その司教は白いローブを身に纏った、青い長髪の女性だった。

 この世界では女性の司教というのも一般的なのだろうか。


「まさかその、背中がちょいちょい赤い奴のことか? はぁ・・・・・・それくらいのケガでいちいち教会にこられると困るんだよな」


 一瞬上を向いてから、司教は大仰に、ハァとため息をついた。

 司教としても女性としても似つかわしくない荒い口調で、司教が愚痴をこぼしていく。


「神官ってのは忙しいんだよ、マジで。蘇生に解毒に解呪に冒険の記録だぞ? その上病院の仕事までこっちに持って来やがって・・・・・・神官は便利屋じゃないんだぜ?」


 背中がちょいちょい赤いって、なにその軽い表現!? 《硬化》の魔法を使っていなければ全ての傷が致命傷だったんだけど!?


 俺が度肝を抜かれて見つめていると、司教が何かに気がついたように目を見開いた。


「おい、まさか、そこにいるのは行商人か?」

「へ、へぇ、そうでやすが・・・・・・」


 司教が目を付けたのは、俺に肩を貸していたロップだったようだ。

 やけに迫力のある司教にいきなり声をかけられて、ロップは声が上ずっていた。


「行商人とつるむような物好きってことは・・・・・・。お前まさか、その化け猫には絡まれてるわけじゃなくて、一緒に行動したりしてるのか?」


 今度は司教の目が俺に向いてきた。なんなんだこいつ?


「化け猫って、リナのことか? まぁそうだが・・・・・・」

「フヒッ、フヒャハハハハハ!」


 俺が司教の質問に答えると、何故か司教は腹を抱えて笑い出した。

 そして教卓の裏から出てきて、俺達の方へと歩いて向かってくる。


「最高だな! なんだお前、物好きにも程があるだろう! どんな趣味してんだよ! ヒャハハハハハ!」

「だから、何の話をしてるんだよ! 回復してくれないなら帰るぞ?」

「はは、そう言うな。回復くらいしてやるから。《拡大魔方陣》、《回復ヒール》」


 司教の態度は打って変わり、彼女の足裏から魔方陣が広がっていく。

 そして魔方陣が俺の真下まで広がってきた瞬間、俺の背中の痛みが一瞬にしてなくなった。素人目に見ても回復魔法の腕が尋常じゃない。


 司教はすぐ前までやってくると、俺の目を覗き込んだ。

 ワイルドな笑みを浮かべた美人が視界いっぱいに映り込み、俺は思わず生唾を飲み込んでしまう。


「ハッ、なんだ、その態度だと分かってなかったっぽいな。お前の隣にいる猫耳女、そいつ、人間じゃねぇぞ?」

「なっ!」


 どういうことだ? と、俺は司教の目を見返した。

 リナは顔を背けるばかりで何も反論しないし、まさか、本当に・・・・・・?


 冷や汗をかく俺を見て、司教が笑みを深める。


「そいつは猫妖精ケットシー・・・・・・要は、亜人だよ亜人。亜人の生き残り、人間とは似て非なるものだ」

「あー、なんだそういうことか。良かったー」


 俺の反応を観察しながら司教が言った言葉を聞いて、安堵の息を吐いた。

 この世界のことだから、いつの間にか魔獣が入れ替わってるとかそういう話かと思ったよー。


 亜人とか・・・・・・。むしろ俺の、あるいは日本人の大好物じゃないですか!

 エルフとかダークエルフとかハーフエルフとか、吸血鬼とか人魚とか狐娘とかだろ? エルフが多すぎて、それ以外あんまり思いつかないけど。


 そんなの、亜人だからと迫害を受けている女の子相手に、「俺は君が好きだよ」とさえ言えば惚れてくれる完全なる勝ちフラグじゃないですか!


 何故か満面の笑みを浮かべる俺に、司教は目を剥いて、次いで再び大爆笑した。


「ヒヒヒッ、お前、マジで最高だろ! 見てて飽きなさそうだわ! 決めたぜ、これからクエスト行くときは私を呼びな、仕事おっぽり出してついてってやるよ!」

「仕事おっぽりだしちゃ駄目だろ!」


 理由はよく分からないが、この司教は俺を気に入ってくれたらしい。

 ハーレム要員が増えるのも回復要員が増えるのも望むところではあるのだが、気に入られる理由が自分で分からないのって、ラノベで見るより心地の悪いものだな・・・・・・。


 もしかすると歴代のハーレム主人公は、難聴のふりをしてハーレムを回避してるだけだったのかもしれない。


「最後に一つだけ、聞かせてくれ」

「なんです?」


 司教が、笑みを薄めて聞いてきた。

 彼女の口から出てきた言葉は、結婚式で新婦へのの愛を確かめる質問を連想させた。


「お前は何があっても、その化け猫を仲間だと思えるか?」

「思えるさ」


 俺は即答した。


「だってリナは、リナだからな」


 そして、どこかで聞いたような台詞を吐いた。


「フフッ。その言葉が本当になるか嘘になるか、楽しみにしてるぜ?」


 俺の感動必至な言葉を聞いても、司教はただ、意味深な笑みを浮かべるだけであった。

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