第3話 ギルドの規律
俺は結局、半ば強制的に≪防衛ギルド≫に入れられることとなった。
係員に言われ、契約書に「杉本 幸太」と名前を書く。この世界の文字は書けないので、上に振り仮名をふってもらった。
契約書の上半分には、文字がびっしり書かれている。
屈強な係員に聞く限りでは、ギルドの規律が書かれているらしい。
第1項 ギルドに所属している者は、毎月本部に上納金を支払うべし。内臓でもよし。
第2項 クエスト管理局が決定した強制クエストへの参加を命じられたら、絶対に参加すべし。参加しなかった場合、クエストごとに設定された違約金が発生する。
第3項 ギルドは威信のため、死亡者数を改竄することがある。その際に死亡者扱い出来なかった者は、一切の葬儀や遺産相続を禁止する。
第4項 第3項のことは外部にはご内密に。マジで。
文字が読めないので、係員に規律の内容を教えてもらう。
またも律儀に答えてくれる係員だったが、俺は途中で聞きたくなくなってやめてもらった。
あまりにも内容が酷すぎた。
「内臓でよし」って何だよ! ひっとつもよくねぇし表現が曖昧でこえぇよ! 何、内臓で支払えってことなの!?
しかもどうやら規律は百項以上あるらしく、契約書からはみ出した分はクエスト用紙の張られている壁に直接書き込まれていた。
これはクエスト用紙に隠れて見えないというよりか、読まれると不都合だからクエスト用紙で隠してるんじゃないのか!?
不穏なことしか書いてないギルドの規律に戦慄を覚えていたら、早速係員が規律の話を持ち出してくる。
「じゃあ早速、実力を見極めるためにクエストを受けてもらおう。規律第二項に従った強制クエストだ。拒否したら違約金五十万ゴールドな」
金の相場とか分からないけど、すっげぇ無茶なこと言われた気がする!
嫌な予感しかしないが、俺は係員にクエストの内容を聞いた。
「そんなに心配するな、今回の強制クエストは簡単だ。討伐対象はスライム三体。しかも既に14人の戦士が参加を表明している」
「え、スライム三体を十人以上でボコるんですか!?」
警戒していたのとは別ベクトルで酷かった。そんなのリンチじゃないか。
俺は大人数でスライムをプチプチつつく光景を想像して、思わず爆笑した。
「ウヒ、ウヒ、ウヒアハハハハハ!」
「お前の笑い方こえぇな……!」
係員がなにか言ってきたが気にしない。俺はたくさんの女の子達とスライムをリンチにする様子を想像した。
みんなでスライムをつついていく内に深まる友情。
「スライムって柔らかくて気持ちが良いね」「君の方が柔らかくて気持ちが良さそうだよ」「有り難う・・・・・・! 抱いて・・・・・・!」
深まる愛情・・・・・・!
「そ、それなら俺にも出来そうですね」
そんなに好条件でなくてもラノベ主人公であるはずの俺が負けるとは思わなかったが、まぁ初戦だし、これくらいから始めるべきだろう。
「OK。じゃあ、お前も参加者として登録しておくぜ。ま、拒否権なんてあってないものだけどな」
係員は余計なことを言いながら、ギルドの受付に俺の名前を告げた。
よし、これからようやく冒険者としての活動が始まるんだ……!
「あ! 装備を持ってない!」
俺は自分が戦闘している姿を想像したことで、ようやく自分が徒手空拳であることに気がついた。
想像の中ではみんなが色々な武器を手に戦っているのに、俺一人だけがプロレスラーみたいにファイティングポーズをとっていた。不憫だ。
「武器屋まで行ってもらいたいところだが……その様子だと、どうせ手持ちの金はないんだろ?」
俺が無一文なのはバレていたらしい。
気まずさで少し俯いてしまうが、係員は怒るでもなくギルドの受付カウンター裏に引っ込んでいった。そして、何やら持ってくる。
「安心しな。そんな奴のために、ギルドでは初期装備を用意してあるんだ」
係員が右手で持ってきたのは、きれいに磨かれているのか光沢のある、つややかな真緑の―――竹槍。
彼の左手を隠しているのは、異世界中毒の俺でさえ現実世界が懐かしくなる―――鍋のふた。
何の冗談かと思ったが、係員は真顔でそれらを差し出してきた。
竹槍も鍋のふたも、見た目よりは重く、ずっしりしている。
でも何故だろう、一切の安心感が湧かない! こいつらを「相棒」って呼びたくない!!!
RPGゲームで仲間を雇ったときに、初期装備しか持ってないやつらの気持ちが分かった。
「すまんな、ギルドも経営難で、実力も分からん奴にちゃんとした装備は貸せないんだ。その代わり竹槍はレンタル料低いから、安心しな」
「この装備で金とんの!?」
さっきから、係員の「安心しな」が安心出来なさすぎる。
子供に竹槍で戦わせる軍とか、なんか余計な連想もしちゃうんですが!
「おっと、そろそろクエストの集合だから、早く行った方が良いぜ? 違約金を払いたくなければな」
「ぐ、ぐぅぅっ!」
係員が俺の不満を自分から逸らすように、そんなことを言ってきた。
まぁ、相手は所詮スライムで、仲間もたくさんいるのだ。係員に文句を言うよりも、さっさとクリアしてお金を稼ぐ方が有意義だろう。
首を洗って待ってろよ、スライムども!
俺はお前らを…………プチる!
そして、約二時間後。
「いやだぁぁぁ! 死にたくない! 死にたくない! せっかく異世界に来れたのに死ねるかぁぁぁ!」
俺は他のクエスト参加者達と共に指定された場所へと赴いて。
スライムに殺されるのを、首を洗って待っている状態だった。
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