第12話 報告
「さて、まずは俺からか。見ての通り、ラヴィーナの封印をほぼ解いた」
『やっほ~』
「今は首輪しか付いてないが、問題ない…よな?」
『思念体だから物理的に何か出来るわけじゃないし、体を乗っ取れるほど私達に実力差はないから』
「つまり、兄様は本来の力を取り戻して、魔王は自由を手に入れたという理解でよろしいですか?」
『自由って言っても首輪を付けられてるけどね~』
思念体であることをいいことに、ラヴィーナは空中でゆらゆらと浮かびながら暢気に横になっている。
「さて、次はミルティナだ。どうしてそんな恰好になったんだ?」
「えっと……恥ずかしいのであまり見ないで頂けると嬉しいのですが………」
「あ、ああ……わかった」
『兄妹っていうよりは恋人同士ね』
「こ、恋人!? にに、兄様と私が、恋人……」
ラヴィーナの茶々に、ミルティナは何故か頬に手を当て赤面している。
俺達は兄妹だぞ?その可能性はついさっき、手記の存在で完全に消滅したはずなのだが…?
「ラヴィーナ、余計なことを言うな。それで、地下に向かった後に何があったんだ?」
「そうでした。地下へと向かい、例の場所で探している途中で隠し扉を見つけまして。部屋に入ってみると、鳥籠と手紙、それからこの首飾りが……」
『フェニックスの形代ね。それを身に着けている限り、《浄化》の力が常に彼女を守護してくれるわ』
「手紙にもそう書かれていました。鳥籠には黄色の小鳥がいたのですが、触れた瞬間に消えてしまいました」
「フェニックスが残した力がその小鳥で、触れたことで力はミルティナへと継承された、という認識でいいのか?」
『知らないわよ。敵同士だったんだから』
確認のつもりだったのだが、ラヴィーナは両頬を膨らませてむすーっとした表情を浮かべた。相当嫌な思い出があるのだろうな。触れないが。
「それもそうか。それで、力を手に入れたらその……大胆な恰好になっていたと」
「そ、そんなに見ないでください……発情してしまいますよ?」
『………アレの影響を受けたんじゃない?』
「俺も同じ事を思ってしまった。悪影響を受けてしまったか……」
顔を手で覆わずにはいられない。
妹がほぼ全裸に近い恰好でいることもだが、あの妄想が過ぎる勇者の影響をモロに受けてしまっていることが、俺の頭を悩ませる。ミルティナ、お前もか……。
あれだけあいつのことを嫌っていたのだから、お前だけはまともであると信じていたのに。
「……そういえば、お前は何か回収していたようだが何をしていたんだ?」
『ああ……一応ね。残り滓程度だったけど、自分の魂だから念のために回収しておこうと思って。もう悪用されるのはこりごりだから』
「それは良い判断だ。あんなものがホイホイ出て来られたらたまったもんじゃないからな」
悩みの種は尽きないな。
教国の魔動兵。
人造悪魔とでも呼ぶべき先程の怪物。
目撃情報が少ない魔族に、まだまだ謎の多い魔神。
そして、女神と天司と精霊。
魔族たちに関しては情報が不足しているし戦力の全容が分からない。
女神はあの時以来接触はなし。
天司はミルティナという例があるが、その時が来たら手助けしてくれるのかはわからない。
精霊などもっと分からない。ヨルハが使い手であることはわかったが、どれほどの力を有していて、その力はミルティナの『力』と比べてどうなのか。それらが分からなくては、戦力としてどこまで頼れるか判断がつかない。
『それじゃあ、目的も果たしたことだし、魔女のところに行く?』
「なんだか楽しそうだな。知り合いか?」
『うーん、何て言えばいいかしら………魔術にも個性があるって知ってる?』
「そうなのか?」
『まあ、知らなくても無理ないか。今度魔族と会った時にでも気を付けて見てみなさい。私やカイゼルが見せた魔法陣と比べて明らかに違う箇所があるから』
「そんな悠長なことが出来るか?」
魔族との戦闘は基本的に命懸けになると思うのだが。
ただでさえどんな魔術を使ってくるか分からないのだ、悠長に眺めている暇などそうそうないだろう。
『話を戻すけど、私の昔の知り合いの魔族の気配をほんの少~し、微々たるものだけど感じるのよ。点々とね?その中で一番濃厚なのが、例の「天空の魔女」みたいなのよ』
「どうやって感知しているのかは知らないが、とりあえずそちらに向かうか」
『レッツゴー! ――の前に、頭お花畑の妹ちゃんを現実に戻さないとね。あと、悪影響を取り除くのも忘れずに』
それだけ言うと、ラヴィーナは消えてしまった。疲れたから休むということだろう。先程の戦いでは代わりに頑張ってくれたからな。
ミルティナは……手遅れじゃなかろうか?以前から言葉の端々に危険な感じがしていたからなぁ。手の施しようがないところまで来ていると思うが、やれるだけのことはやるか。
フレイへの情操教育は俺の手に掛かっている!!
結局ミルティナの恰好は元に戻る気配がないため、そのままの恰好でフレイの元まで向かうことにした。本人は大層渋ったが、知ったこっちゃない。戻らないのならそのままでいてもらうしかないのだから。
戻ると、フレイが真っ先に抱き着いてきた。可愛いなぁ。心配させてすまない。
気のせいか、少し背が伸びたか?
「パパッ!!」
「待たせたな。一人にして悪かった」
「ううん。一人でも大丈夫だったよ。それで……ママは?」
「ああ……うん。当分は触れないであげてくれるか?」
後ろでいまだに頬に手を当ててモジモジしているミルティナを、フレイは何とも言えない表情で見た後に俺へ説明を求める視線を送ってきた。俺には首を振る以外にどうしようもない。
フレイの教育に良くないので、目線を合わせながら頭を撫でて視線をこちらに向かせる。あれを見てはいけない。
「これからどうするの?」
「魔女に会いに行こうと思う。そちらでも情報収集しておきたい」
「心配性だね、パパは」
「かもしれない。なるべく不確定要素は排除しておきたい主義でな。少しでも知識を仕入れておきたいんだ」
「そっか。パパのそういう真面目なところ、フレイは好きだよ」
「―――――――はっ! 一瞬意識を失ってしまった」
俺の天使はここにいた! 癒しと安らぎをもたらしてくれる。
ミルティナへの失望や父親への怒りも、フレイを見れば忘れられる。
あぁ……お前だけはそのままでいておくれ。
「時間もないみたいだし行こっか。ママ~」
「…………はい?」
「ママがダメダメになってる気がする」
「はぁ……当分はそっとしておこう」
「だね」
フレイが少し大人びた印象を受けた分、ミルティナが残念になった印象を受けてしまう。もうしばらくはポンコツなままだろうな。
次の戦闘までに元に戻ってくれることを願うばかりだ。先の戦いで《天使》の力がとても有能だということは証明されたのだから。
生家を燃やした後は、鷲獅子を召喚して大陸の東へ。
俺の前にはフレイが、後ろにはミルティナを括り付けて。フレイは初めての鷲獅子ということで興奮しっぱなしだ。
なぜ飛行魔法ではないかというと、ミルティナがポンコツのままなせいで使えないためだ。飛行魔法の方が早いが、ミルティナを置いて行くわけにもいかないから今回は諦めることにした。フレイが楽しそうだから、今回は許すとしよう。
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