地球の運命

海 潤航

地球の運命

晴天の空に、一台の円盤が中空に静止している。


その円盤の事を地上にいる人々が気づき始めた頃には、無数の円盤が空を覆っていた。


世界中の国防軍の戦闘機がスクランブル発進をする。しかし、円盤に近づく前に次々と故障を起こして緊急着陸していく。何らかの妨害電波が出ている証拠である。


そんな戦況が1時間ほど続いた。



円盤から、世界の国の代表がすべて集まる国際会議の会場に通信が入った。


「地球人よ、われわれと戦っても勝ち目がない。無駄な抵抗はやめよ」


国際連合や様々な機関は大混乱に陥った。




円盤の宇宙人たちは、各国の言葉で話し始めた。


「我々は、地球を攻撃するのではなく、資源発掘にやってきた。たまたま見つけたこの星に、その資源が大量に存在している事を確認した。

故に、その資源をもらっていく。そして、その対価として地球人が欲しがっている、金やレアメタル等を与える」


そう伝えると、空を占領している何万もの宇宙船がいっせいに飛び回り始める。


低空飛行をする宇宙船は、時々住宅に向かって光線を発する。そうすると、その住宅にいた人が消え、代わりに金の延べ棒かが何本かおかれていた。


人狩りである。


地球人はなすすべがなかった。その行為が世界中で数時間続いていく。


「連れ去った人間たちには、決して苦痛を与える事はない。寿命が尽きるまで、幸せに暮らす事の出来る環境を保障する」


そう地球人に伝えると、宇宙船は上空に編隊を組み、かき消すように消えていった。




地球上の各国の機関は互いに通信し合い、被害状況を調査報告を伝え合った。


2日ほど後、宇宙人たちの人狩りの状況がわかった。宇宙人たちに連れ去られたのは、すべて70歳を過ぎた老人たちだった。


世界中の老人たちがすべて連れ去られていた事が判明した。日本でもまったく同じ状況だった。


会議場に集まった、政治家や学者たちは不思議がった。


「なぜ、老人たちだけを連れ去ったのでしょうか」


「まったく理解できん。連れ去られた家の者は嘆き悲しんでいる」


「なんてひどい宇宙人たちだ。人の命と金を交換するとは」


世界中は、連れ去られた老人たちを哀れんで、各地で悲しみの集会が行われた。


宇宙船を探し出し、連れ去られた老人たちを奪い返す計画が出されたが、現在の人類には、到底無理な計画で話は立消えになってしまった。





何ヶ月かたち、政府関係者は地球の経済がこれまでになく活性化していることを報告した。


各国の老人問題が一挙に解消し、高齢者の為の福祉予算、病院などの経費が必要なくなったのだ。


さらに高齢者のいた家には金が対価としておかれているので、その為一挙に裕福になり、大きな消費ブームが訪れた。株式は上昇し、各国の経済は大きく上向いていく。


「宇宙人たちが行った人狩りは人道上許されないが、結果的に地球の為に大きく貢献してくれた事になる」


そういった発言がオフレコで飛び回っていた。


いかに老人問題が、各国の重荷であったかがわかる。経済がよくなった為、貧困がある程度解消され、各国の軍事紛争の数が極端に減っている。


さらに先進国では子供の出生率が上がり、人口比のアンバランスが解消されている。地球の経済は良い方向に進みだしたのだ。





ある秘密会議で学者達が沢山集まった。今回の件の総括をする為だった。


「宇宙人たちは、70歳以上を連れ去った問題だが、その理由の解明は進んでいるかね」


「いやはっきりとしたことは何もわかりません。70歳の老人といえば、生物的な寿命を超えた存在です。


消え去ったのは、元気な老人ばかりではなく、病床にあった人や不治の病にかかっている人たち全てが連れ去られているのです。


老人たちを宇宙人の食料にするには問題が多すぎます。


又、連れ去られた老人の中には頭脳明晰な人も含まれていますが、押しなべていえば、脳の活性化は衰退期に来ている人ばかりです。経験や頭脳を利用するというのも、負に落ちない箇所が多すぎます。


はっきりいえば、老人たちは何にも役に立たない存在だといっていいでしょう。宇宙人が70歳以上の老人たちだけを、つれ去った理由がまったくわかりません。


しかし、結果的に、いろんな問題を抱えていた老人たちが一挙に居なくなったのですから、地球はラッキーだったと思われます」


若い学者が、言いにくい事をはっきりと話した。


一堂に集まった学者も、大きくうなずいている。


うーんと議長はうなった。


「誰か、今回の問題に解釈をつける人はいませんか」


しーんとした中で、隅に座っていたお宅臭い学者が手を上げた。


議長は彼に発言を許した。


「私の考えを述べさせていただきます。老人というのは、人類の寿命の上位にいるということです。


なぜ、長寿なのかは、皆さんご存知のとおり、いろいろ条件が重なって老人になっています。特別健康だからでもなく、体が元々強いだけでもない。医療や環境が整っていたとしても、すべての老人がその恩恵をこうむっているわけではありません。


たまたま、病気にならなかったり、事故にあわなかったりしているという側面があります。つまり、生き延びて長生きをするというのは、運がいい事の結果なんです。


老人というのは運がいい人々なんです」


まわりの反応はまったくなかった。



「この前、進化生物学のグールドの本を読んではっとしたんです。


進化するのも運しだいという内容でした。どんなに適者生存でも、因果があったとしても、運が悪く滅んだ種は多いはずです。


現在、ここに存在している人間たちも、適者生存だけで生き残っているわけではありません。日本の大災害の時、たまたまその場所にいなかった人たちや、災害にあってもたまたま、運がよくて生き延びた人たちばかりです」


まわりの学者は少しあきれ気味にお宅風学者の話を聞いている。


お宅風学者は続けて話す。


「あの宇宙人たちは高度に発達した科学力を持っています。だから「運がいい」という事を科学的に解明できたと思います。


老人から、「運がいい」という物質を抽出できる科学力があるのかもしれないと考えたんです。


運が良ければ、どんな困難にぶち当たっても、クリアーできるのです。本人の努力や資質にはまったく関係がなくても、問題をクリアーできる力こそ運なのです。


あの宇宙人たちは、地球をたまたま見つけたといっていました。この無限にある星達から、確率を無視した運のよさで地球にやってきたんです。宇宙人からすれば、とっても運のいいことです。


しかし、宇宙人が運のいい物質を使ったとすれば、当然の結果なのです」


「運を抽出するって、どうやるんだ」


「それは、わかりません。しかし地球人だって運の存在は十分知っています」


「そのとおりだ。運を呼び込む印鑑とか財布なんていうのが売っているくらいだからな」


「古代から行われている占いも、運というものを知ろうとしている行為だともいえるぞ」


「老人から、運という物質を取り出すなどばかげた話だ」


会議場はざわめいた。


「みなさん、お静かに。彼のいうのはただの説です。何の根拠もない話なのです。他の意見がなければ、これで会議は終了します。お疲れ様でした」


議長がこう締めた。




お宅学者はみんなが帰った会議場でぼそぼそとつぶやいた。


「みんなは、すべての存在は運しだいで存在しているのに、なぜその事を認めようとしないのだろうか。


地球の老人たちは、すべて「運」をもっている存在なのに、誰も気付こうとはしない。


地球が奇跡的にこの宇宙に存在しているのも、長寿を果たした人々の運のおかげなのに。


みんなは老人たちがいなくなって、各国は老人問題が解決したと喜んでいたが、運のいい人たちがいなくなった地球はどうなるのだろう」


彼は心配そうにノートを閉じた。





宇宙空間を彗星が流れている。


本来この彗星は、地球に近づく軌道ではないのだが、彗星の軌道に突然出来た、小惑星群のひとつの星が、たまたまその彗星と接触する。


それにより軌道が変更された。


そんな事が3回ほどあり、本来くるはずではない彗星は地球を目指して猛烈なスピードでやってきた。


その時、たまたま運悪く、地球は彗星と衝突する軌道上に進んでいた。


そしてたまたま運が悪く・・・・・



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球の運命 海 潤航 @artworks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ