第9話『ターニングポイント』その2


 鏡花水月(きょうかすいげつ)、それをアガートラームと判別できている人物が、どれだけセンターモニターの周囲にいるかどうか――そう思っている人物もいる。


 ただし、アガートラームは都市伝説と言われていることい加えて――知名度が絶対的に高いとは言えない。


 ネットで10万人にフォローされているようなレベルで有名な人物は、ARゲームをプレイして自分からネット炎上をさせようと考えはしないだろう。そんな事をしてもリスクが非常に大きいので、やるだけ無駄と言えるのかもしれない。


「どちらにしても――?」


 アルストロメリアの目の前に姿を見せたのは――ミリタリー系にありそうな重装備をしたボスキャラだった。


 マッチング状況によってボスが変化する訳ではないので、もしかすると他プレイヤーのレベル合わせでボスが決まるのかもしれない。


「もう後戻りはできなさそう――多分」


 アルストロメリアは、今回に限って言えば両腕のビームブレード、背中のシールドビットに絞り込む。


 右腕にはシールドタイプのブレード、左腕にはホーミングレーザーも発射可能なタイプを装備している。


 それ以外のプレイヤーは、アガートラーム以外は中距離タイプが多い。自分も中距離だが、ブレードは近距離なので遠距離以外に対応と言う気配である。


 楽曲の方は全プレイヤーがスタンバイ完了すると演奏開始と言う訳ではなく、一定時間が過ぎると自動的に始まる仕組みのようだ。


「いよいよ始まるか」


「このメンバーでは、どう考えてもアガートラームを有利と思うが――」


「ARゲームは初見プレイでも非常に苦戦すると聞く。プロゲーマーでも慣れるのに一週間かかるのはザラだぞ」


「それ程のレベルなのか?」


「そうでなければ、総プレイヤー数が百万人突破するのに1年――位かかったと言われても不思議じゃない」


「1年? ソシャゲでも百万人に到達するのは――」


「それ程にARゲームの難易度は、人知を超えている――そう言う事だ」


 ギャラリーの方も騒ぎが収まったと言うか、周囲に迷惑がかからないようにあまり声を出さないようにしている。周囲が騒音禁止と言う訳ではない。単純に、他の一般客に喧嘩を売ってネット炎上を避けるためだ。



 フィールドの広さは、意外な事に半径50メートルほど。リングアウトの概念があるかどうかは不明だが――これだけの広さならばARゲームではスペースを使う方なのかもしれない。


 対戦格闘系でも、実際のプロレスや格闘技と同じような広さで済むし、リズムゲーム系であれば、ライブハウス程ではないが――ある程度の広さで問題ないだろう。


 この広さを必要とするのは、サバゲ―系列のARゲームしかないのである。


「この広さ――最初のステージやアイテムステージよりも広い。まさか?」


 アルストロメリアが周囲のフィールドを確認する暇もなく、楽曲のイントロが流れ出す。明らかな判断ミスと言える、可能性が高い。


 アガートラームの方が臨戦態勢から、目の前に出現したターゲットを的確に叩いている所を見ると――アルストロメリアのニアミスが、どれ位致命的なのかが分かる。


 他のプレイヤーは、その場からあまり動く事無く――自分の目の前に現れたターゲットを撃っているだけに過ぎない。


 このようなプレイスタイルで、本当にクリアできるのか――それをいち早く思ったのが、実はアルストロメリアだった。


(他のプレイヤーがボスにダメージを与えないと、こちらへの負担も大きくなる)


 アルストロメリアが思ったのは、ボスのゲージは1本のみ、と言う箇所。つまり、これは協力バトルという側面もあると考えていた。


《楽曲に関しては1曲勝負となります。ボスゲージを一定量まで低下、もしくは0にする事でステージクリアとなります》


 アルストロメリアが思いだした説明文、それはボスゲージに関しての部分だった。ゲージが1本と言うのは別の説明文で書かれていた物だが――。


 これが仮にソシャゲで言うレイドバトルだとしたら、協力プレイは必要になってくる。


「どうやら、気付いた人間がいるようだ――」


 男性プロゲーマーの一人が、アルストロメリアのプレイスタイルを見て――何かを感じた。


 彼女のプレイスタイルは、特筆するような部分はない。あの時の理論値プレイは偶然の産物であり、参考にはならないと思う。


 それを踏まえた上で、彼はアルストロメリアを評価していた。彼女はプレイ次第では化ける可能性がある――と。

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