夢の中で出会ったあなたは、最後まで美しかった

夜月時雨

第一夜 “不思議な夢と日常について”

 小さい頃から、同じ夢を頻繁に見る。


 夢の内容はこうだ。


 目が覚めると、見知らぬ街のちょっとした展望台にいる。

 展望台には屋根があって、椅子や机がいくつか設置されている。

 そこから見える景色は至って普通で、晴れている日もあれば、雨の日ある。昼の時もあれば、夜の時もある。

 天候も時間も毎回違うのだ。

 そんな展望台に、いつも本を読んでいる男の子がいる。その子は歳月が経つにつれ成長していき、見た感じ、自分も同い年位のように見える。

 私は、その男の子にここはどこなのか、と問いかける。

 しかし、問いかけた瞬間、体がふわふわして、意識が朦朧とする。

 そんな中、男の子が顔をあげ、ふと目が合う。

 すると、目が合う事が合図かのように、完全に意識がなくなり、気づいた時には目覚ましの音で目が覚める。


 と、まぁながくなってしまったが、これが

私の夢だ。


 至って普通の夢なのだが、私は、どことなく違和感を覚えた。

 しかし、夢なのだから何があってもおかしくない、といつも同じ結果にたどり着く。


 どうも慣れないその違和感に悩まされてはや12年。

 物心がついた時から覚えてるこの夢はいつしか、寝る前に使命感を抱くほどになった。


 今日は会話をする!

 あそこがどこなのか調べる!


 しかし、気づけば自分の部屋で目が覚めてしまう始末だ。

 あの男の子はいったい誰なのか、あの場所はいったいどこなのか。

 結局は何も情報を得ないまま朝を迎えてしまう。


 そんな不思議な夢に悩まされた今朝も、スッキリしないまま目覚め、学校へと登校した。


「起立、礼。」


 ガタガタと音を立てながら、34人の男女が気だるげに椅子に腰掛ける。

 そして、次に耳にするのは担任の声だ。


「今日からは平常通りです。来月にはテストがあるので頑張ってください。」


 30後半の男性の声はいいとは言い難いが、子守唄には最適な低さである。


 眠たい。そんなことを考えながら、さも真面目に話を聞いているかのように、前を向いてぼーっとしていた。


「昨日のニュースヤバかったよね!」

「ね!まさか浅川陸斗あさかわりくとが熱愛報道されるなんて思ってなかった!」

「しかも女優の篠原柚しのはらゆずだったとか、お似合いすぎて批判できないっつーの!」


 そんな会話が後ろから聞こえたかと思ったら、いつの間にかホームルームは終わっていたようだ。


「よし…!」


 有りもしない気合を入れ、無理やり目を覚ます。


楠木くすきさん。」

「なに?」


 正直、返事をする気力もないが、社交辞令だ。


「今日の日直、楠木さんだから、これ。」


 そう言って渡されたのは日誌だ。


「ありがと。」


 微笑みながらお礼を告げると、自分の席へと帰っていった。


 完全に忘れていた…。


 今日は早く帰って課題を済まして、録画していたテレビをゆっくり見る予定だったのに…。


 これでは、早くは帰れそうにはない。少なくとも5時以降の帰宅になるだろう。折角の6時間授業だったというのに…。


「はぁ…。」


 そんな重たいため息をつきながら、一限目の数学の用意をする姿はとても屈託そうで、その場にキノコでも生えてくるのではと思うほど、淀んだ空気が流れていた。


 まぁ、いくら気を落としても日直が変わることではない。諦めるしかないのだ。


 そう覚悟し、携帯をいじり始める。


 ニュースのトップページには、さっきクラスメイトが話していた熱愛報道が表示されている。


 浅川陸斗というのはモデルをはじめ、俳優、バラエティ、演劇、歌など、数多く活躍している元読者モデルだ。

その多彩さは高く評価され、去年は新人賞も受賞したほど。


 そしてその相手は、女優の篠原柚。

 今まで出演した映画やドラマ、演劇などは合わせて1500本にも及ぶという実力派だ。

 子供の頃から活躍していた彼女は安定した人気を誇っていた。


 そんな20代の二人が熱愛報道ともなれば、SNSは炎上してしまっている。


 そりゃそうだ。好きな人に恋人が居たのだと発覚したのだから。


 しかし、芸能人はプライベートがないのは可哀想だな。


 頬杖をつきながら、そんなことを考えているうちに、早くもチャイムがなってしまった。


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