『貴方の本当に行きたい場所をご提案します』(お題:お盆)


 旅行代理店の売り文句に惹かれ、案内のまま山奥の村へとやって来た。

 相方を亡くしたその夏、私は仕事に忙殺され満足に新盆も迎えてやれなかった。

 八月末にやっと休暇を取り、だがする事も無く妙な旅に身を任せている。




 今夜は村名物の祭りがあると宿の者が言った。

 一風変わった祭りで参加者は皆左前に浴衣を着、決して喋ってはいけないという。


 会場には櫓が組まれ、要は時期遅れの盆踊りだ。


 手拭いを頭に被り、団扇を片手に二重の輪となり見知らぬ人々と踊る。

 空には皓々と満月が光り、照明は櫓の提灯のみ。


 くるりと回って内外が入れ替わる。すれ違いざま、ひらりと手拭いが翻る。


 私は確かに、恋しい人の横顔を見た。




 今宵満月。旧暦七月十五日だ。



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