第18話:ね、手を繋いで帰ろう

 その日、鷺沼と警察が帰っていった頃には、とっぷりと夜も深くなっていた。


「ごめんなさい、槇さん。私が煽るようなこと……」

 間宮が頭を下げると、槇はううん、と微笑んで首を振った。

「間宮さんはうちの従業員だからね。責任者の僕が守って当然だから。あんまり気にしないで」

「そうよー。聞いてなかったけど、女の子に手を上げようとする男にろくな奴はいないし、どうせ大したことないことで頭に血を昇らせたんでしょう」

 ライカも間宮の頭を優しく撫でて慰める。

「正直ひやひやしたけどね。怪我がなくてよかった」

 そう言った槇の頬は赤くれあがり、少し話しにくそうだった。間宮はぎゅっと胸が締まるのを感じ俯いた。それが、罪悪感なのかなんなのか、わからないまま。

 すると突然チリリと涼しげな音とともに、愛らしい声の女の子が店に飛び込んできた。

「間宮!」

「ひ、姫野!?」

 間宮は驚いて声の主、姫野に振り向いた。彼女は息を切らせて、ひどく心配そうな顔でそこに立っていた。

「どうしたの姫野、なんで此処に?」

「お店に、なんか警察が来てるって聞いて……、今日、バイトの日だったし、何かあったのかと思って……」

「だ、誰から?」

「クラスの子」

 警察がこんな住宅地に仰々ぎょうぎょうしくパトカーで来たからか、此処でバイトをしていることを知っている子が心配して姫野にも共有したらしかった。

「間宮さん、もう遅いから姫野さんと帰りな」

 槇が微笑んで間宮に帰るよう促すと、間宮はコクリと頷いて工房の方へ鞄を取りに行った。

「姫野、久しぶりね」

 ライカが姫野に手を振ると、姫野はぺこりと頭を下げて微笑んだ。

「お久しぶりです。槇さんも」

 槇も笑って会釈をし、「お久しぶりです」と言った。そうこうしているうちに間宮が戻ってきて、槇とライカに挨拶をすると、姫野と一緒に店を出ていった。


 帰路。

 姫野と一緒に暗い帰り道を歩きながら、間宮は店で起きたことを姫野に話した。話しているとなんだか悔しくって、再び怒りが湧いてきそうになった。

「間宮って案外すぐに思ったことを口にしちゃうからなぁ……。なんか、不思議なところで強引に行っちゃうっていうか……」

「強引って……、そうかなあ?」

「思い切ったことを選択したりね。ひやひやすること、昔からあったよ」

 あまり心当たりがなかったが、姫野が言うならそうなのかもしれない、と間宮はぼんやりと思った。

「でも、槇さんが守ってくれて良かった」

「そうだね。すごい、とっさに前に出てくれたんだ。その後その男と距離を取ってくれたり、めちゃくちゃ安心した」

「あはは……そっか」

 姫野は少しだけ俯くと、すうっと息を吸った。

「ね、手を繋いで帰ろう」

「え? いいけど、何?」

 姫野は間宮の手を取って、歩き出した。

「ううん。怖い思いしただろうから、守ってあげようと思って」

「ははっ、何それ?」

 間宮はくすっと笑うとその手を握り返した。

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