第5話:間宮には、できない
「テスト、ねぇ」
朝霧がちらりと壬鷹の顔を見ると、その胡散臭い占い師はにっこりと笑った。槇とはまた違った詐欺師の香りがする。
言わんとすることはわかる。この占い師がどのくらいの精度で宝蟲石を鑑定できるのか、雇い主としても知っておきたいのだろう。ジェミィも口では信頼を置いていると言っているが、鑑定ミスでのトラブルなんて、経営者としては避けておきたいリスクなのだ。
何が紹介したい、だ。完全に出しに使われている。そんな状況を槇がいない日を狙って作り上げに来るこの合法ロリータ社長に、いっそ賛辞を投げたくなった。
朝霧は小さくため息をついてすくっと立ち上がり、何も言わずに工房の扉に手をかけた。朝霧が扉を開けると、目を丸くした間宮がお盆にお茶を乗せて立っていた。
「あっ、もう終わっちゃったの?」
朝霧やジェミィ達の分までお茶を入れてくれていたらしく、間宮は少し慌てたようだった。
「いいえ、出してあげて。すぐに戻るから」
朝霧は間宮を先に店内へ通すと、すっと工房の中へと消えて行った。
「……クールっすねぇ」
壬鷹が興味深そうに彼女を飲み込んだ扉を見て言う。
「クールって言うか、無愛想って言うか、だけれどね?」
ジェミィが少し呆れつつも笑った。
「あ、お茶です」
そんな二人に間宮がお茶を差し出すと、二人は「ありがとう」と言ってそのお茶を受け取った。間宮はぺこりと会釈をし、それからカウンターに腰かける幸の薄そうな女のもとへと向かった。
「はい。お茶です」
「ありがとうございます」
彼女の声は先ほどよりも消え入りそうだった。
「……それで、ええと、石なんですけれど、アクセサリーにしますか?」
間宮はどうやってこの気まずい空気を変えようか、と模索しつつも会話を紡ぐ。
「アクセサリー……。指輪、とかですか?」
「はい。ネックレスとか、ブレスレットとか、ブローチにもできます。えっと、予算ってお幾らぐらいでしょうか。いくつか持ってきます。それから……もし」
こくり、と間宮は息を呑む。
「もし、悩み事とか、願いたいことがあるなら……」
「……悩み?」
「石には、さっきも言ったんですが、パワーみたいなものがあって……、あっ縁起物っていうか。信じる信じないはあると思うんですけど。せっかくうちに来たんだったら、その……」
踏み込んでいいのか。
踏み込んではいけないのか。
間宮には線引きができない。
「困っていることがあるのなら、私で良ければ、お話を聞きます。どうか、あなたのための石を選ぶのを、手伝わせてくださいっ!」
この女性は、絶対に助けを求めている。
間宮にはその叫びを無視することが、できない。
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