第11話:自信がないの?

 一方で、槇はジェミィと一緒に石の即売会に来ていた。北アフリカを拠点にしている商人との約束まで少し時間があったので、二人で様々な商人が展示している宝石や原石を見て回っていた。

「あなたがこの業界に入ってから、もう四年になるかしら」

 ジェミィが槇に問うと、槇は頷いた。

「そうですね。そう思うと結構長くこの仕事をしています」

「まだまだよ。この道七十年の私からしたらね」

「歳がばれますよ」

「やかましいわ。おだまり?」

 槇は、これは失礼、とくすっと笑った。

「けれど、宝蟲石を安定して取り扱うことに成功したのはあなた達だけよ。本当に貴重なの。感謝しているわ」

「恐縮です」

 ジェミィはニタリと笑った。妖艶ようえんで妖精のような少女は現実離れして見えた。

「宝蟲石を定常的に仕入れたいわ。協業関係を強化させてもらいたいと思ってる。良い話だと思うけれど。どう思う?」

「朝霧が過労死しないレベルであれば、僕には断る理由はないですよ」

「ふふ、そうね。朝霧を壊すわけにはいかないわ。私にとってもね。ともかく、前向きな回答で嬉しいわ? 槇。この件はまた追って話しましょう」

 槇は微笑んで頷いた。

「ところで槇。あなた、朝霧とは養子縁組ようしえんぐみをしているのになぜ一緒に住まないの?」

 槇は思わず足を止め、ジェミィを見下ろした。彼女はからかうような眼で見上げていた。

「……ただのビジネスパートナーだからですよ」

 槇は微笑んでそう返した。

「僕たちが離れて暮らしていること、よくご存知でしたね?」

「朝霧が言ってたからね。一人で暮らしているって。あなたと朝霧は書類上養子縁組をしているはずだから不思議に思っていたの。野暮な質問だったかしら? ごめんなさいね?」

「いいえ。まぁ、役所に知られると面倒なので、できれば内密にしてくれると嬉しいです。表向き一緒に暮らしていることになっているので」

「そうね、そもそもあなたのような独り身の若者が、親戚でもなんでもない朝霧を養子にできたのも、その呪いでうまくやったからだしね。叩けばほこりが出るし、穏便にいきたいわよね」

「……もしかして今、僕、脅されています?」

 にっこりと笑って槇がジェミィを見下ろす。笑顔の裏に冷たい空気が流れている。しかしジェミィはそんな不穏な槇の笑顔など一切意に介さず、不敵に笑って首を振った。

「まさか。ただの興味本位よ。私はあなたとは対等に取引がしたいと思っているわ?」

「それは良かった」

 ジェミィはくすっと笑い、そして言った。

?」

 槇は唐突なその問いに一瞬言葉を詰まらせると、やはり胡散臭く微笑んだ。

「何がですか?」

「……いいえ?」

 ジェミィは意味深に、ねっとりとそう言って、「さ、商談の時間よ」と歩き始めた。

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