第10話:宝蟲石

「姫野様は確かにこのブローチを購入して行かれました」

 槇はブローチを受け取り、目を細めた。

 椅子に腰かけた間宮は、そわそわしながら槇と対面していた。こうしている間にも姫野は危ない目に合っているかもしれない。早く本題に行きたくて仕方がかなった。

「お急ぎのようですね」

 槇はそんな間宮を見透かして微笑んだ。

「慌てなくても、我々は可能な限りの最善な対応をご用意します。まずは説明責任を果たさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

?」

「メリットもデメリットも、お客様に理解していただいたうえで取引をする。それがうちの店のモットーですので」

「はぁ……」

 槇はありがとうございます、と微笑んだ。

「この石は、姫野様に原石をお持込みいただき、うちで取り出させていただいた宝蟲石ほうちゅうせき……と思われていたものです」

「ほうちゅうせき?」

 また知らない石の単語がでてきて、間宮は首をかしげた。

「パワーストーンってことですか」

「あはは。そういった可愛いものならいいのですが。簡単に言うと、確実に人に影響を及ぼすむしを含んだ鉱石です」

「むっ蟲!?」

 間宮は虫が大の苦手だったので、思わずのけぞってしまった。

琥珀こはくってご存知ですか?」

「……なんか黄色い鼈甲飴べっこうあめみたいなやつ?」

「そうです。あれは木の樹液の化石なのです」

「へぇ……知らなかった」

 素直に驚いた。

「木には虫がとまっていることがありますからね。時にその虫を巻き込んで化石化してしまうことがあるんです。そういった虫入りの琥珀は貴重で、価値が高いのです」

「私は気持ち悪いからいらないですけど……」

 率直な意見を述べた間宮に、槇は可笑しそうに笑った。

「そして琥珀以外の宝石にも、蟲が含まれていることがあります。しかし琥珀と違ってその蟲は昆虫ではありません、宝蟲ほうちゅうというです」

「呪う……!?」

「あぁ、適切な言葉がないので『呪う』と言っていますが、何も破滅させるようなことばかりではありません。例えば。姫野様がお持ちくださった原石から取れた宝蟲石は、『人を素直にさせる』呪いをかける蟲が含まれていました」

「素直に……?」

「非常に前向きな呪いですね」

 槇はくすっと笑った。

「だけど手違いで違う宝蟲石をブローチにはめてお渡ししてしまったのです」

 ブローチをつまみ、彼は顔の前に掲げた。


「この、持ち主の『感覚を失わせる』呪いをもった宝蟲石をつけて」

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