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「どうですか?」
コースターの上に置いたグラスには、透き通った赤いカクテル。グラスの端には虹色の綿菓子が乗っている。甘くて少し酸味の効いたさっぱりとした味だ。
グラス越しに不安そうな斉藤君の顔が見える。カウンターから見ていると、その立ち振る舞いはもうちゃんとしたバーテンダーに見えた。まだまだ甘いが、シェイカー捌きは様になっているように思うし。
ただ、このカクテルをお客様に提供できるかと言うと。
「ちょっと難しいかな」
「・・・やっぱり。ダメですか?」
「うーん、ダメって言うよりおしい、って感じ」
「おしい、ですか?」
「例えば」
ベースはラムよりジンの方がこのカクテルの甘さを引き立てられると思うし、クランベリーを足した方がシュッとする気がするし。
「はい、はい」
それからいくつかのアドバイスを斉藤君は素直に頷いてメモしていた。その後また作って直して作って直して。あぁ、懐かしいなと思う。
その昔、俺もこうやってマスターに付き合ってもらってオリジナルのカクテルを作って来たのだから。
胸の奥がドクドクと音を立てる。ワクワクに近い気持ち。素直に楽しいと思う。
「うーん、これだとちょっとぼんやりしてしまうような気もしますね」
「じゃぁ今度はベリーを潰してみて」
「ちょっぴりアマレットを入れてみたりするのはどうでしょうか」
「ミントを落とすのはどうだろう」
「はっ! まずいですマスター! もうこんな時間!」
「えっ! あ、やべ本当だ!」
楽しくてつい、気がつけば開店まであとに十分。仕込みも進んでいないのに!
「すみません、マスター」
「謝らなくていいよ、斉藤君のせいじゃないし」
「でも」
「いいのいいの、俺も楽しいから。続きはまた今度ね。絶対に美味しいカクテルになるから」
そう言うと、斉藤君は照れくさそうにはにかんで笑って見せた。
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