居候アリスはメイドとなって
yuyu
エピソード0
―早い段階で見つかって良かった。
そうお医者さんに言われた時、全身の力が抜けたような感覚がした。
階段をかけあがり、荒い息もそのままに病室に駆け込むと、ごめんねと普段通り微笑むお母さんの姿があった。
「あぁ、アリス。そんなに急いで来てくれることなかったのに、ありがとね」
少しホッとして、私は近くにあった椅子に腰をかけた。
「でも、数か月入院だってお医者さんが。」
「うん、定期健診サボらなくて良かったよ。連絡通り、着替え持ってきてくれた?」
病院から連絡があったのは、ちょうど大学の休み時間だった。今日はお母さんが職場指定の定期健診だということは聞いていたけれど……。まさか、お母さんが入院することになるとは思ってもいなくて、授業が終わったら着替えを持ってくるようにと電話で看護師さんから伝えられた時も、最初、冗談だと思った。
「本当に心配かけてごめんね」
その言葉が胸に響く。
「大丈夫だよ、ゆっくり休んでね。」
私は同じ部屋にいる患者さんに会釈をして病室を出た。
―
振り返ると、お母さんの名前が他の患者さんと一緒に病室の入口に掛けられているのが見えた。これは現実だ。
「ただいま。」
静まり返ったリビングのカーペットに座る。時計はもうすぐ夜9時を差そうとしていた。奥にあるお母さんの部屋の扉とタンスは開けっ放し。さっき私がお母さんの着替えを探した後、そのいきおいで家を飛び出したからだ。忘れずに玄関にはカギをかけていたみたいだから、そこは我ながら偉いと思う。
私は西野アリス。一般の大学に通う20歳。家族はお母さんだけ、つまり母子家庭だ。お母さんは8年も音沙汰なかったお父さんにしびれをきかせて縁を切り、そのまま私と2人で暮らしている。お母さんは近くのデパートで働き、生活費と私の学費を稼いでくれていた。
「数か月って……」
入院の期間が長いしあやふやすぎて、不安になる。
長い溜息をついた時、スマホからラインの通知を告げる音が流れた。
―今日は本当に心配かけてごめんね。
お母さんだ!
―たぶん2、3か月で帰れると思うんだけど、その間、親戚のおじさんの家にお邪魔させてもらいなさい。お母さんから連絡しておいたから、明日着替え持って行くのよ。ほら、小さい頃にお世話になっていた、山根のおじさん、わかる?
「え……」
山根のおじさんは、私が小さい時に、一緒に色んなところに遊びに連れて行ってくれた人。とても優しかった覚えがある。で、でも……。
私、1人でも大丈夫だよ!
―私が心配なの。それにもう連絡しちゃったし。明日、必ずよ!
そう、私のお母さんはこういうところがある。思い立ったらすぐ行動。まあ、そのおかげで職場でも仕事が早くて頼れるとか言われてるんだけどね。
このお母さんの行動が、そして山根のおじさんの元で出会った彼らが、これからの私の人生に大きく関わってくるなんて、この時の私は思いもしてなかった……
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