マスカダイン島物語

青瓢箪

第1話 はじまり

 海の彼方に一つの島あり。


 その島に九つの「神霊」が降り立つ。


 島の民で選ばれし者、「器」となりてその神霊と融合せし。

 その者、現人神あらひとがみとなりて、長い年月を生き、島の民に恵みを与えり。


 また、現人神となり損ねた者もあり。

 その者たち「眷属」となりて、長い時を生き、現人神に仕えり。


 やがて、島民の中に死してのち、「死霊」となる者現れり。死霊、これ人に憑き、死をもたらさんとする不吉なものなり。

 死をもたらしたのちは、悪霊となりて災いを起こせし。


 神霊は人から死霊を離す力を持ちたり。

 自らの欠片を人に与え、これを引き離さんとするなり。


 この「試練」に成功せし者は元の人に戻りたり。

 失敗せし者はその命を落としたり。


 稀に、成功せしが死霊が離れぬ者あり。

 これ「ワノトギ」と呼ぶ。ワノトギは只人より長き寿命を持ちたり。

 また離れぬ死霊は「トギ」と呼びたり。


 ワノトギはトギと神霊の欠片を身体に持ち、神霊の力を使い、悪霊を滅する力を持つ稀人となりき。

 たびたび命を落とすこの所業、ワノトギの生業となり、人々の救いとなる。


 しかし、悪行を起こせしワノトギは堕ちて悪霊と化し、島に禍いを呼び寄せたり。

 故に、この禍いを「トギ堕ち」と呼び、人々は恐れり。




 器、眷属、共にこの島の各地に神殿を構え、そこをきょとす。


 北はロウレンティア、山中に神殿を構え、五体の神霊を置きし。

 土を司りしクヴォニス、風を司りしヲン=フドワ、金のユシャワティン、癒しのミュナ、予言のネママイアがそこに居れり。

 また、島民の造りし紫神殿もそこにあり。

 神職を生業とする「神官」を置けり。

 その中で神官にあぶれた者、「コトトキ」となりて島を巡回する神職の者となりき。


 東はサンセベリア、草原にて神殿を置く。

 草木を司るシャンケルなり。


 中原はアマランス。

 火山の中にて火のイオヴェズ在り。


 南はヒヤシンス、深き湖の底に眠るは水のフラサオなり。


 西のダフォディル、砂漠の神殿にて雷帝チム=レサ在りしが、あるとき器が見つからず、その存在を喪えり。五つの地方で最も貧しき土地となりき。



 この物語は九つの神霊が宿いし「マスカダイン島」が舞台となる。




 ダフォディルの神霊、チム=レサが喪われて久しき折、マスカダイン島の北、小島オレア島に一人の女が流れ着きたり。


 物語はそこから始まりたり――



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