53.悪口




 女の子というものは人のうわさ話が大好きだ。

 学校の休み時間、放課後。

 話す大半の内容は、うわさ話。


 誰と誰が付き合った、誰々先生が恋人に振られた、誰々がテストで最下位になった。

 そんなゴシップ的な内容が、特に大好物。


 仲の良い子達でグループを作って話す。

 話の信憑性は気にしない。話をする事自体が楽しいから。



 私もあるグループにいた事があった。

 しかし今は距離を置いている。少し前に色々あって気まずくなってしまったのだ。

 もちろん私が何かをしたわけではない。


 そのグループも毎日のようにうわさ話をしていた。

 最初は憧れの先輩の好きな人や、誰々君の好きな人がグループの中の1人だとかいう思春期の女の子らしい会話だった。



 それがいつ変わってしまったのか、もう覚えていない。

 しかし誰が変えたのかは分かっている。


 その子、千里ちゃんは可愛い子だった。

 胸までの髪は自然にくるくるしていて、地毛なのに少し茶色。全体的にふわふわした印象の子だった。

 性格は大人しめで、あまり意見を言わずにみんなの話しを頷いて聞いているみたいな、世間一般で言う聞き上手。



 ある日そんな千里ちゃんが、初めて自分から話題を出してきた。


「島田さんが、甲さんの悪口をこの前言ってたよ。」


 私は驚いた。

 千春ちゃんの性格から、そんな話をするとは思わなかったから。

 他のみんなも驚いていたけど、話の内容に気を取られて深くは考えていなかったようだ。


 そして島田さんと甲さんはもともと性格が合わなかったのだが、千里ちゃんが話した内容のせいでさらに対立するようになった。




 それから彼女は、毎日色々な話をし始めた。


 誰々ちゃんは援交をしているだとか、誰々先生は不倫をしているだとか、誰々君は誰々先生と付き合っているだとか。

 最初は嬉々として聞いていた子達も、段々と千里ちゃんについていけず恐怖を抱くようになっていた。

 そして彼女を避けるようになる。




 その間、私はどうしていたのかというと、千里ちゃんが初めて話をしだした時から、気づかれないように避けていた。


 何故か。

 ……話をしていた彼女の肩に、小さな人が見えたからだ。


 ファンタジーの様に可愛らしいものでは無く、山姥みたいなしわくちゃなおばあさん。



 その人が話をする彼女の顔を、持っている鋭い針で狂ったように笑いながらつつくのだ。

 何度も何度も。

 刺された所から血が出ているのに、みんな何も言わない。


 それは私だけにしか見えていない。



 千里ちゃんが色々な話をするたびに、そのおばあちゃんが顔をつつく。

 彼女の顔はもうズタボロだった。直視できない程に。

 私はあまりにも酷すぎて顔を見ていなかった。



 そんな様子のおかしい私に気づいた千里ちゃんは、放課後に私を教室に呼び出した。

 誰もいない2人きり。


「最近、どうしたの?何か変だよ?」


 どうしてもやっぱり顔を見られない私に、彼女が聞く。顔をつつかれながら。


「千里ちゃん。肩におばあちゃんがいて、ずっと顔をつつかれているよ。今も、ずっとずっと。」


 もう耐えきれなくて、だから思い切って言った。



 言われた千里ちゃんは、しばらく何もしない。

 動かないし、話さない。

 静かな教室にプスプスと何かを刺す音が鳴る。


 怖くなって帰ろうとした時、彼女はやっと口を開いた。












「知っているよ。」



 私は彼女の事を見ずにそのまま教室を出た。

 それから千里ちゃんの姿を見る事は無かった。





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