54.端に
僕は小さい時に両親に捨てられてから、おじいちゃんとおばあちゃんと住んでいる。
物心がついた時から周りと自分の環境が違うと分かり始めて、よく2人に聞いてしまった。
「おかあさんとおとうさんはなんでいないの?」
そう聞くと、毎回2人は悲しそうな顔をして、でもすぐに優しそうな微笑みを浮かべて。
「お母さんとお父さんは、お前の小さい頃に遠くに行ってしまったんだよ。」
頭を撫でてくれた。
今思うと、僕が傷つかない様にしてくれていたのだと思う。
その時はまだ小さかったから、泣いてしまうだけだったが。
それからなんだかんだで両親がいない状況になれた頃、それが始まった。
最初は、小学校3年生の時だった。
視界の端に何かがふと見える時があるのだ。
勉強している時、テレビを見ている時、ご飯を食べている時。
ぼーっとした時にそれは見える。
見え始めた頃は気づいていなかった。
本当に端っこ、注意しなければ気づかない所だったから。
それはとにかく真っ黒だった。
そこだけ絵の具で塗りつぶしたかのように何もない黒。
すごく気味が悪かったが、害は無かったから僕は放置していた。
しかしある日、ちょうど僕の12歳の誕生日の時。
その日は遠縁の人が亡くなったらしく、2人は泣きそうになる僕をなだめてから通夜に行ってしまった。
家の中に1人きり。
僕は寂しさを紛らわせる為にテレビをつけたが、すぐに飽きて時間を持て余してしまう。
そんな時、視界の端の存在がゆらゆらと動いているのに気が付いた。
今まではただいるだけだったそれが、視界の端から消えたり見えたりを繰り返す。
僕は何故だか分からないけど、その動きに鳥肌が立った。
時計の振り子のように単調な動き。
だけどそれは段々、揺れる動きが激しくなっていく。
ついにはゆらゆらとしていた動きが、ぶんぶんと音を立てそうなぐらいに。
僕は目を閉じたかった。見たくなかった。
しかし目を閉じる事が出来ない。
まるでホラー映画の主人公が、近づいてくる何かに対して目をそらせないみたいな。そらしたら終わりだと思った。
そのままずっと目を開けていると涙が出てきたのか、視界がぼやけてしまう。
それでも視界一杯に揺れる影は分かる。
気が狂いそうな程、いっそ狂った方が楽なんじゃないかと思うほど、長い時間それを見ていた。
ゴキンッ
その音は突然鳴った。
そして同時に、影の動きは急に止まり揺れがおさまる。
しかし鳥肌は立ったまま。
その影に見覚えがある。そんな気がした。
頭のどこかでは正体が分かってはいけない。そう警告していた。
でも目をそらせなかった。
正体を知らなくてはいけないとも、思ってしまったからだ。
目をこらして、それを見続けていると急に正体が分かった。
それは人の足だった。
ピンッと床につま先がのびた足。
ズボンの色や、靴下の模様までもがはっきり分かった。
足は浮いている。
それが何故か理解した時、僕は気絶した。
目を覚ますと、心配顔のおじちゃんとおばあちゃんが僕を見ていた。
「大丈夫かい?」
「帰ってきたら倒れていて、驚いたんだよ。」
それぞれ心配してくれる声に返事しないまま、僕は口を開く。
「お母さんかお父さん、死んだの?」
2人は目を見開き、何かを言おうとして結局何も言わなかった。その様子を見て、僕の考えがあっていたのを悟る。
しかし困らせたくなかったので、それ以上は何も言わなかった。
それから黒い影は見えていない。
喜ぶ所なのだろうが大人になった今、1つだけ気になる事がある。
僕が見た足は、1人分だった。
記憶があやふやで男か女かは分からないけど、確実にどちらかのはず。
もし、もしも生きている片方が死ぬ時、僕はまた影を見る事になるのだろうか。
それが怖い。
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