19.線香
私の家では、誰もあげていないはずの線香の匂いがたまにするという不思議な事が起こる。
私たち家族は決まって朝と夜の2回しか線香をあげないのだが、匂いは様々な時にふと香ってくる。
「……あ。またあげたね。」
今日も仏壇の方から匂いを感じ、隣りでまったりとお茶を飲む祖母に私は話しかけた。
「そうだねえ。お父さんったら。何回も何回もあげすぎよ、もう。」
淹れたてなので熱いだろう緑茶をゆっくりと飲んで、祖母は呆れた顔をする。
いつの頃からか、祖母は線香の匂いがするたびに、数年前に亡くなった祖父のせいだと言うようになった。
「お父さん、暇さえあればいつもお線香あげていたからね。死んだ後もなんて、まったく。」
そう言われてみれば確かに祖父は生前、気がつけば仏壇の前にいた。
熱心に手を合わせている姿に、私達も感化されて毎日線香をあげるようになったぐらいだった。
だから私達家族の間では、線香をあげているのは祖父だという結論になっている。
そして匂いを感じたら仏壇の方に向かって、一応手を合わせた。今は亡き祖父の事を思って。
祖母が1番手を合わせる回数が多くなるのは、自然の成り行きだった。
そのエピソードを、友人や知り合いに私はよく話す。
色々な人と私の感動を共有したいのと、そしてこの出来事について考えてほしいと思ったからだ。
「良い話だね。」
「ほっこりする。」
「おじいちゃんの事が何時でも感じられて良いね。」
大体の人が、話を聞き終えるとこういった感想を言った。みんな良い話として面白がりつつも、感動する。
感想も似たような言葉が多かった。
しかしサークルで話した時に、ある1人の後輩が言った感想はこれまでと違っていた。
その言葉を、私は今でも忘れられず思い出す事がある。
「おじいちゃんはお線香をあげられる方ですよね。だって、お線香って亡くなった人に対してのものなんですから。……それをやっているのって、本当におじいちゃんなのかな。」
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