君の左手 僕の右手
@Shiiharu
第1話 僕①
駅から離れた所にとある公園がある。
その公園は元々人気が少なく、夜には不気味なくらい静かな場所になる。
敷地は狭く、子供たちの好きそうなブランコや滑り台といった遊具はなにもない。
ただ、青い塗装の剥げかかったベンチと蕾をつけるにはまだ早すぎる大きくない桜の木がそこにはあった。
そんな公園に一人の女の子がいた。
ベージュのコートに黒のスカート、スカートから伸びた足は細く、おろされていて何の飾り気の髪はとても長かった。
公園に照明器具が少ない上に長い黒髪で女の子の顔ははっきり見えなかったがおそらく高校生くらいだろう。
彼女はベンチに腰掛けながら寂しそうな目で空を見上げ星を見ていた。時々、風が彼女の長い綺麗な黒髪を撫で上げる。
その光景はとても美しかった。
高校生活二度目の冬、僕は彼女に心を奪われた。
僕は極々普通の公立高校に通っている。
友達と声がかれるまでカラオケで歌ったり、腕が上がらなくなるまでボーリングしたり、授業中に先生にバレないようにトランプをしたり、とてもバカなことばかりをするどこにでもいる極々普通の高校生だ。
残念なことに時間が流れるのは早いものでそんなバカなことをしている間にもう三年生になってしまった。
一緒にバカなことをできる友達はいる。決して学力が良いわけではないがそれなりに勉強もできる。将来やりたいこともある。家庭はとてもいい環境で両親はケンカすることがなく兄弟も仲が良い。長続きはしなかったが恋人もいた。
僕はとても幸せな人生を送っていて生活には不自由はなかった。
ただ一つ、あの冬の日に見かけた名前も知らない彼女の事がすこし気になっていた。
その日は少し用事があって滅多に訪れないクラスに来ていた。僕には聞き覚えのない名前の生徒宛にノートを渡すよう先生に頼まれたのだ。
目的の生徒を探してクラスを見回したとき目を疑った。
なんとそこには、友達と楽しそうに話しているあの冬の日の彼女がいた。
奇跡だと思った。
それから僕は頻繁にそのクラスに出入りするようになった。
いろいろなアプローチの方法を考えては実行できず、実行できたとしても失敗。そんなことを繰り返して彼女と話せるようになる頃には残りの高校生活は少なくなっていて、彼女を初めて見たあの冬の日から一年が経とうとしていた。
話してみてわかったのだが、彼女はとても人当たりがよく、彼女の表情は万華鏡のようにコロコロとかわってあの冬の日の夜に公園で見かけた人物とは思えないくらい明るかった。あの印象的な長い黒髪は健在であの日より少し長くなったような気がした。そして、色白で簡単に折れてしまいそうな華奢な体、硝子玉のように綺麗で吸い込まれてしまいそうな彼女の目。そんなところにまた僕はひかれていった。
彼女と知り合って間もないうちに長いようで短い高校生活が終わった。
死に物狂いで受験勉強したので、無事、志望校にはなんとかギリギリ滑り込みで受かった。
恋の方は・・・
単刀直入に言おう。短い期間で彼女とはそれなりに親睦を深められたと僕は思う。
が、さすがに時間が短すぎて告白へはたどり着かなかった。
こうして僕の恋も終わった。
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