鞍家小典之奇妙奇天烈事件帖~松五郎の白玉水~
宮国 克行(みやくに かつゆき)
第1話 序章
日差しが眩しかった。
建物の隙間から射るように指す光は、真っ直ぐに松五郎の瞳に当たっていた。それでも、松五郎がそこを動かなかったのは、目を細めると、その光が矢羽根が連なっているように見えたからだ。しかも伸びたり縮んだり、見方によって変化していく。それが子供心に楽しかったからだった。
大きく分厚い手が、桶から柄杓で素焼きの器に透明な水を移す。柄杓から器に入れ替えられる水は、日光に当たって得も言われぬ光を放つ。まるで昼間の星のようだと思った。次ぎに、手は天秤棒にぶら下がっている小箱の引き出しを開け、匙でひとすくいし、サラサラと器に入れる。白砂糖だ。そして、これまた小箱の別の引き出しから、匙ですくって器に落とす。それは、白くて丸いもの。白玉だ。
はいよ、と差し出された器を両手で捧げ持って、ひとしきり、光にかざす。水の表面が揺れるたびに光が躍る。
一口、くちに含むと、水の冷たさと白砂糖の甘さが広がる。器を傾けるたびに転がってくる白玉を一口かじる。餅米の甘さがなんとも言えない幸せを感じさせてくれた。
至福の時間だった。
松五郎の記憶の中にいつまでもこの映像と感覚が残っていた。
彼が欲しているものはこれ以外なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます