鞍家小典之奇妙奇天烈事件帖~松五郎の白玉水~

宮国 克行(みやくに かつゆき)

第1話 序章

 日差しが眩しかった。

 建物の隙間から射るように指す光は、真っ直ぐに松五郎の瞳に当たっていた。それでも、松五郎がそこを動かなかったのは、目を細めると、その光が矢羽根が連なっているように見えたからだ。しかも伸びたり縮んだり、見方によって変化していく。それが子供心に楽しかったからだった。

 大きく分厚い手が、桶から柄杓で素焼きの器に透明な水を移す。柄杓から器に入れ替えられる水は、日光に当たって得も言われぬ光を放つ。まるで昼間の星のようだと思った。次ぎに、手は天秤棒にぶら下がっている小箱の引き出しを開け、匙でひとすくいし、サラサラと器に入れる。白砂糖だ。そして、これまた小箱の別の引き出しから、匙ですくって器に落とす。それは、白くて丸いもの。白玉だ。

 はいよ、と差し出された器を両手で捧げ持って、ひとしきり、光にかざす。水の表面が揺れるたびに光が躍る。

 一口、くちに含むと、水の冷たさと白砂糖の甘さが広がる。器を傾けるたびに転がってくる白玉を一口かじる。餅米の甘さがなんとも言えない幸せを感じさせてくれた。

 至福の時間だった。

 松五郎の記憶の中にいつまでもこの映像と感覚が残っていた。

 彼が欲しているものはこれ以外なかった。


 

 

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