豚姫様と腹黒コック

ラムレーズン軍曹

第1話 「汚いメスブタ。」

 あるところに、可愛らしい姫様がおりました。それはそれは可愛く、王様、王妃様に存分に甘やかされて育てられました。その結果…

「おかわり!!おかわりはまだなの!?」

「はい!姫様!!今すぐお持ちします!しかし…」

 テーブルには料理がなくなった皿が30枚、いや50枚ほど重ねて置かれていました。

「食べ過ぎではありませんか…?」

「なによ!持ってこないならお父様に言うわよ!!」

 お皿に残った最後の豚足を持ちながら、姫様は言いました。

「はっ、はいっ!只今お持ちします…!!」

 給仕係のじいやは汗を流しながら駆け足でキッチンへと向かいました。

「ふんっ、本当にここの使用人はグズばかりねっ!」

 そう、姫様は甘やかされ過ぎて、意地が悪く、姫とは思えないほどデブになってしまったのです。


 その頃、お城に一人の若者が到着しました。

「ここが…新しい職場ですか…。」

 怪しい笑みを浮かべながら、若者は屋敷の中へと入っていきました。


「…遅い…!」

 時計を見る姫様。じいやが去ってからまだ3分ほどしか経っていませんでした。

「もう!待てないわ!!」

 姫様は食卓を離れ、キッチンへと向かいました。


『バンッ!!』

「ちょっと!!おかわりはまだなの!?」

 姫様はキッチンのドアを勢いよく開けて言いました。

「ひっ、姫様!!いけません!こんな、キッチンまでくるなど…!」

 誰もが焦りを顔に浮かべている中、一人だけ冷静な顔をしている者がおりました。


「あっ、すみません。今、新しいものをお作りしようとしておりました。」

 そう焦りもなく答えたのは、先ほど来たばかりの若者でした。

「あっ…貴方は…」

「姫様、初めまして。今日から姫様の料理をお作りさせていただきます。オーロと申します。」

 オーロは自己紹介をし、頭を下げましたが、姫様の反応がありません。


「…姫様?」

「貴方…なっ、なかなかイケメンじゃない…!ど、どう?コックなんて辞めて…その…私の、恋人にならない?」

 姫様は真っ赤になりながらオーロに言いました。どうやら姫様はオーロに一目惚れをしたようです。

「……お言葉ですが、姫様。」

 少しの沈黙の後、オーロが口を開きました。

「汚く臭い息を吐きながら私に夢見事を言わないでいただけますか?メスブタ。」

 何の曇りもない笑顔でオーロは言いました。

「なっ…!貴方っ、何を言っているかわかっているの!?」

 姫様は激しく怒り、オーロの胸倉を掴みました。

「クリームパンのようなブクブクの腕で私に触れないでください。食材は自分からコックに触りませんよ?このダメ豚姫様。」

 また、何の曇りもなくキラキラとした笑顔でオーロは言いました。


「なっ、なによ…!おっ…」

「お?」

「お父様に言いつけてやるー!!!!!」

 そう叫ぶと、キッチンから姫様は走り去っていきました。

「おい、お前…!なんてことを…!」

 同僚のコックがオーロのことを青ざめた目で見つめ言いました。

「ああ、申し訳ありません…。私、言いたいことは隠しておけず言ってしまう癖がありまして…」

「思っててもダメだし言ってもダメなことだよ…!!」

「くすっ、…あはははははははは!!!」

 皆がどんよりしている中、キッチンの空気を変えたのは女料理長のミーナの笑い声でした。

「あんた最高だよ!多分姫様も、あんたのこと気に入ってるよ!あははは!!」

「はあ…私は言った通り、彼女に不快感を覚えましたが…。」

「あははっ、おっかしー!!あんた、良いここのコックになるよ!!」


その頃姫様は…

「…なっ、なにあいつ…あんなの…あんなの…っ」

 オーロを思い出し、

「…惚れちゃうに決まってるじゃない!!!!!!」

 彼に恋い焦がれておりました。

「なに!なに!私がデブで、私の息が臭い…胃腸のことを心配しているのね!そして私の腕をクリームパンのように可愛いだなんて…あんなの…あんなの、惚れちゃうに決まっているじゃない!!」

 姫様は、持ち前のポジティブシンキングと被害妄想で完全にオーロに恋をしてしまいました。


 この物語は、腹黒ドSコックのオーロと、ぽっちゃりポジティブ妄想姫様の恋の物語です。

 恋の物語…のはずです。

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