感情的デフレ
韮崎旭
感情的デフレ
楽しそうに見えることができない。三桁台の国道沿いの歩道を歩く。その時に白菜を、考えなしに購入したことは、後に私に不利益をもたらすに違いないと思った。使われないで不法投棄された冷蔵庫の怨嗟の歌。この場所にごみを捨てないでください。法律で罰せられます。
安い月給で人肉を切り売りする仕事をもう25年も抽象的に、ただ漠然と続けてきた。はっきりいって一切の熟練を要しない単純作業だった。ただ、機械よりも人間にやらせた方が安上がりだというだけ。
ひいては薬物の代謝などで、肝臓にとっての明らかな不利益となっている。
新鮮な人肉はほとんど奇異の目で見られた。曰く、腐りかけの方がうまい。あれは人間の食いもんじゃない。
水族館にとって大きな不利益であったのは、連日の熱帯夜による夜間の空調設備の稼働費用の増加であった。私は帰宅したところで、電灯を明るくさせる体力もなく、床の上でレタスをちぎって食べた。手でちぎって食べた。ハムスターが死んだが、もとより飼って居たハムスターなど存在しなかった。県道16号線沿いの、中古車販売店、ファストフード店、ローカルチェーンスーパーマーケット、ガソリンスタンド。懐かしさは、排気ガスのにおい。どこにでもある地方都市。山林ではないというだけの、うら寂しい、人工物の疎な集まり。
私は私の人肉を売りさばくから奇異の目で見られた。
コインランドリーがあったことに気が付き、再びのガソリンスタンド。
荒廃を思わせる、ものの不在の不在。
コンビニエンスストア、ファミリーレストラン、隣町の郊外型ショッピングモール。
雑多でも端正でもない、くたびれた地方市街。
そこでは悲劇は生じない。
薄汚れてきた白衣を身に着けて今日も、人肉を売りさばく。
誰も帰ってこない部屋で時間が腐ってゆく。「あなたの死」と書かれた血文字のようなラブレターだけが、その場では生きていた、あるいはね。
ラジオは吐き出す。「『佐用町を流れる佐用川の氾濫による水害で、運休となった。』」
私は私の生がこの土地の在り方に、依存にほど近くなじんでいることを自覚し呪う。そして私は私をもまた呪う。澱んだ生活圏が疲弊して、腐敗するように燃え尽きても、ここの土は 私を呪い続けるだろう。
参照(引用元):『鉄道・路線廃止と代替バス』堀内重人著、株式会社東京堂出版、平成22年(佐用町……の部分)
感情的デフレ 韮崎旭 @nakaimaizumi
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