社会

 同じ顔した木偶の坊。そんな言葉を呟き、俺はネクタイを締める。


 『自分らしさ』を主張する時代だと、顔も知らない誰かが言った。いや、どうやら言ったらしい。俺は、そんな言葉に意味があるのか、幾度考えても解明できずにいた。


 取り繕った嘘、貼り付けられた笑顔、借りてきた情熱。それで一体、その人のなにが測れるというのか。


 視覚化されたデータは優秀であると、何処かのどれかが言った。これもまた、らしい話で、俺はそいつの顔も名前も知らない。それなら、全てをデータとやらに任せればいいじゃないか。こんな言葉を吐けるくらいには、俺も腐れたようだ。


 矛盾が蔓延るこの社会に生きようとする俺。そんな俺も、社会の一部として呑み込まれるのか。


 ああ、実に下らぬ世の中である。

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