勘定

 怪しい外見の店に、眉間に皺を寄せた男が立ち寄った。


「おい!俺のこの“怒り”を買い取れ!」


 カウンターなのか、かび臭い板を叩きつけ、男は怒鳴り散らす。その向こう。シルクハットを深く被った男がこう応える。


「お客さん、少しは落ち着いて下さい。どれどれ、ほうほう──」


 そう言って踵を打ち鳴らす男の姿をじろじろと眺めると、店主は嘲笑うかのようにこう言った。


「お客さん、その“怒り”なら、総じて120円だよ」


 その金額を聞いた男は唖然としたのか、間抜けな顔をしている。


「どうする?売るかい?」


「いや、その程度ならいいや・・・。悪い、今日は帰るわ」


 眉間の皺はどこへやら。どことなく晴々した表情で男は店を後にした。


「またのご来店、お待ちしております」


 そう言って笑う店主の後ろの棚には、何かが詰まった瓶が大量に並べられていた。


 

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