oh.マイゴー
采嶺
いち(林)
うーん、口がちべたい。しかも、苦しい。
何、これ? …………ま、いっかぁ〜
「すぅ〜」
ソファ気もちぃ。そんな感想しか出ないほど心地が良いのだ。フワフワしたソファで寝る! これはあたしの好きな寝方の一つ。
「すぅ〜」
「姉さん!? 何してんの!?」
んあ? なぁにぃ?
この声は……
アイドルの眠りを妨げるなんて……なってないぞ我が弟よ。
「あずきバー口に入れたまま寝たの!?」
んあ? あずきバー? あずきバー……? あ、そっか、あたし昨日あずきバー食べながら寝ちゃったんだ。通りで冷たくて苦しい訳だ。
「ほっへぇー(取ってー)」
自分でやっても取れないと思う。私、力無いし。アイドルに力なんて必要ないから。
「もう、姉さんは――あ、これ取れない」
「うほぉ!?(うそ!?)」
取れない? そっか、取れないのかーじゃなくて! 取ってよ!
「姉さん。いってきまーす」
森が別れの言葉を!? やめて! 諦めないで我が弟よ! あたしは諦めないよ!
自分であずきバーの棒を掴み引っ張る。
「〜〜っ!」
びくともしない。ぴったし歯に収まってて取れない!
「〜〜っ! 〜〜っ!」
やっぱ無理。いやいや諦めきれない! 今日始業式だもん!
「~〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ!」
歯ぁ取れる! あずきバーも取れそう!
だけど、努力は報われる! はず。
そして、七回目の挑戦であずきバーは取れた。
うぅ、唇がちべたい。あずきバーめ、あたしを瀕死まで持ち込みおって……!
サクっ。
「ん〜! おいひぃ!」
流石あずきバー!
「姉さん、学校行くよ……」
森が制服姿で呆れたように言う。
呆れないでよ、森。
「分かった! ちょっと待っててね!」
ソファから起き上がり、二階へ続く階段をかけ登る。はぁ、さよなら愛しのソファちゃん。
「学校のアイドル『もりりん』が今来たよ!」
「姉さん、アイドルじゃないでしょうが」
「細かいことはいいの」
「え、ええ……」
それと、もりりんとはあたしが自分につけたあだ名。アイドルなんだから、呼びやすく、親しみやすくしないとね。
それよりも、クラス割りを見に行きたい気持ちが早る。クラス〜クラス〜!
スキップしながら昇降口まで行き、あたしのついて開口一番は、
「どこどこ! あたしの名前は!」
新しいクラスに新しい友達! ……と言っても全クラスに友達がいるあたしには関係ないかな。だけども早くクラスに行きたい気持ちが募る。
ところが……
「あり? ない?」
無いなぁ、あたしの名前。
1組……無い。
2組……無い。
3組……無い。
4組……無い。
5組…………無いっ!
どうして! どうして無いのよ……。
ハッ! あたしは学校のアイドルだから、特別なクラスになったとか?
それなら、納得できる!
「姉さん。姉さんは進級出来てないから二年生でしょ?」
「え? …………そっか、二年生だったね!」
すっかり忘れてた。
「〜♪」
ルンルン気分で二年生の方へ行く。
あたし〜の名前〜。
「あれ?
「ん?」
今、誰かに苗字を呼ばれた気がする。二年生であたしの事を知ってるのって……あ、そっか。
あたしはアイドルだもん! 二年生ならみんなあたしを知ってるはずだもん。
「君も、あたしのファン?」
「ふぁ、ファン? いえ、近所に住んでる黒沢ですよ、おはようございます」
そう言って黒沢……さん? は頭をペコリと下げた。って、今なんて言った? ファンじゃない!? これは由々しき事態。
でも、近所に黒沢さんなんて……いたなぁ。会わないから存在薄かったなぁ。
「へぇー名前は?」
「え?」
あれ? 聞こえてなかったのかな?
「君の名前」
「あ、ああ。僕は
なんかムズムズすると思ったら陽くん敬語だ。苦手なんだよねぇ敬語。よそよそしくて。
「あたしだぶったの! 後ね、敬語じゃなくていいよ?」
「だ、ダブったんだ……」
陽くんはダブった私をジロジロ、眺めていた。どうしたんだろ?
「ところで陽くんは何組なの?」
「森林さんと同じクラスだよ。二組」
「ほぇ〜宜しくね!」
「うん。宜しく」
二年生初日から友達が出来た!いいスタートだなあ。
二組……ここ去年の教室だ。えっとあたしの机は〜あった! 窓側ど真ん中! はあ〜懐かしいなぁ。きちんと落書き残ってるし。
「あたしの机ぇ〜えへへ〜」
「それ、森林さんの?」
「うん。あと陽くん、あたしはもりりんだよ!」
「はえ?」
「もりりん!」
陽くんが面食らった顔してる。なら、陽くんにもわかり易く宣言しよう。
「私はこの学校のアイドル『もりりん』だよ!」
そう高らかに宣言する。決まった!
「あ、もりりん……ね」
どこか困惑した感じで承諾した。
コレで、あたしのファンが一人増えた。
あ……今思い出したよ。陽くんって生徒会の一年会計だった子じゃん。すごい子が近所にいたもんだ。ビックリ。
「もりりんはスクールアイドルなの?」
「ん? 違うよ。“学校のアイドル”だよ」
「そ、そうなんだ……」
うん! そうだよ!
このあと会話のあとも生徒は入ってきたりした。それから5分後先生が教室に入り席は初日だけ自由席となり、先生の指示に従い始業式までが無事に終わった。そのままの流れでクラス替え後の自己紹介タイムがやってきた。
クラスの廊下側から順に元々のクラスなどを言うが、そもそもあたしのように全クラスに友達がいるような子も当然いるので意味ないと思う。ん? 嘘じゃないよ?
そして今、目の前の陽くんの自己紹介。
「どうも
ほほう。会計になったのは生徒会本部から推薦されたからなのか。そして陽くんが座りあたしの番。
ここは、一つ私の存在を知らしめなくては。
「みんなご存知のもりりんだりん! 本来なら三年生なんだけど、訳あって二年生でーす。宜しくね!」
決まった……!
誰……? 変な奴……。などなどの声が聞こえて来る。ほらほら、教室がざわめき出した。私の事を知ってる子が私の話をしているのよ。
「パンチあったねぇ、林」
「アイドルだもの!」
私がそう言うと陽くんは若干困惑した面持ちで「そ、そうだよね……アハハ」と言った。
何? なんか変な事言った?
この後、学活など色々とあったが、それらは割と早めに終わった。先生の指示もあるが、この教室全体が真面目に話を聞き、仕事に取り掛かるので早めに終わったのだろう。
「ん〜〜あー終わったぁ〜」
「後はHRだけだね」
「だねぇ〜」
今は学活終わりの休み時間。仕事などがあったため疲れて机に突っ伏している生徒もチラホラ。
私も眠くなってきたなぁ、ふぁ〜。ちょっと寝ようかな……。
「姉さん! また何かかましたの!?」
むにゃ? この声、森?
「また森〜? もう、お姉ちゃんの眠りを妨げるのそんなに好きなの?」
朝と昼二回にわけて妨げるなんて。
「ち、違うよ林《》りん》ちゃん? 森くんは「二年生に変な奴がいる」って聞いて林ちゃんの事だと思ってきたんだよ」
「お、スイカちゃん! おっ久ー」
スイカちゃん。本名を
「久しぶり、林ちゃん」
スイカちゃんが返事を返してくれ、その後ろから背格好の高い青年が出てくる。
「おい水谷。お前スイカなんて言われていいのか?」
「うん、林ちゃんが付けてくれたあだ名だもん」
「おーれんれん! お久ー」
「れんれん言うな! ……ったく、久しぶりだな林」
れんれん。本名は
「あの、皆さんは」
隣で陽くんが遠慮気味に聞いてくる。
あ、そっか。森の事は知ってても、スイカちゃんや、れんれんの事は知らないんだ。
「えっとね、あの可愛い子がスイカちゃんで、あの怖そうなのがれんれん。二人とも、あたしの友達だよ」
「は、はぇ〜」
「納得すんな!」
納得した様子の陽くんにれんれんがツッコミをいれ、陽くんはビックリしていた。流石に初対面で怒鳴るのはダメだよ。
「れんれん! 初対面なんだから怒鳴ったらダメだよ」
「ぬ、ぬぅ。林のくせにまともな事を……」
あたしが注意するとれんれんは悔しそうにそう呟いたが、すぐに黙った。
れんれんは不良ぽいけど、人の落ち込む姿とか嫌いなんだよね。だから、あたしに注意されて、その時に陽くんを見て、自分に非があると思ったんだと思う。
「姉さん、帰るよ」
しょぼくれてるれんれんを見ていた所にしんしんがそう言う。時計を見ると学校が終わってから10分間経っていた。
もうそんな経ってたのね。
「そうだね、帰ろっか」
何も荷物の入っていない学校のバックを持って、教室を出る。
あ、と思い振り返り、ニコッと笑顔を見せ、
「陽くん、さよなら!」
そう言ってしんしんに付いていく。
進級出来なかったけど、楽しくなりそうだなあ。もう気持ちが昂って、明日になってほしいよ! 早く帰って寝なきゃ!
「しんしん、早く帰るよー!」
「あ、姉さん! って、しんしんって言うなぁァァァ!!!」
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